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真夜中、皇国から帰ってきた俺は真っ先に自分の部屋を目指した。 メイが無事だったことはすげぇ安心できたんだが、まだ俺の中では謎が残ったままだった。 どうしてシドはメイを生かしておくのか。それだけがどうにも納得できないでいた。皇国は老若男女、子どもにも容赦なく切り捨てる。それなのにメイだけは生かした。何か、特別な理由があるのだろうか。
「調べる必要があるかもな…」
自室の扉を開けて、机の上に皇国兵の服装を乱暴に投げつける。どうせまた何日かしたら使う予定の物だし、それが終わるまで自分の部屋に置いておかなければならない。 本当は今すぐにでも捨てたいを我慢する。
「……はぁ」
ベッドに横たわり、昨日のことを思い出す。 きっとシドはメイに危害は加えないだろう。だが危害を加えないとしてもいつまでもシドの傍に置いておきたくない。あーどうすっかな。 そんなことを考えているうちに段々と思考が停止していった。
「……ん、」
いつの間に寝てたのだろうか。結局良いアイデアが浮かばないままだった。俺は唸りながらベッドの上をゴロゴロする。 25日、俺は0組を工場に送らなきゃいけねぇし…。ぶつぶつ独り言を言う俺は第三者から見たら気持ち悪いだろう。 0組…ちょっと待て。0組と呟いて頭の中に浮かんできたのはあの金髪ヘラヘラ男、ジャックだった。 俺は急いで身体を起こし、身支度を済ませ自室を後にした。
教室、リフレッシュルーム、サロン、とジャックの居そうな場所へ行ってみたがジャックの姿はなかった。 ここに居なかったらどこにいったんだよ、と文句を吐きながらテラスに来てみると、ベンチに横たわっているジャックの姿があった。俺は深い溜め息をつきベンチに歩み寄ると、気配に気付いたのかジャックがこっちを振り向く。
「あ」 「…久しぶり、だな」
俺は隣にあるベンチに腰をかける。ジャックは俺を見て、そして再び空へと視線を向けた。しばらく俺とジャックの間に沈黙が流れる。 先に沈黙を破ったのはジャックだった。
「……メイの居場所、ナギの予想通りだったねぇ」 「…なんでそう断言できるんだよ」
ジャックはなんででしょうーと気の抜けた声で俺をおちょくってきた。俺はフッと鼻で笑い、まぁ俺の予想はハズレたことないんでね、と言うとジャックも鼻で笑ってきやがった。今度は馬鹿にされたらしい。
「やっぱり、あれメイだったんだ」 「やっぱりってどういうことだ?」 「政見放送見たとき、あのシドの後ろにいたの絶対メイだって思ったんだよねぇ」 「は…?」
政見放送、あの軍事パレードのことか。ジャックはシドの後ろにいた奴がメイだとすぐにわかった、と言った。俺も軍事パレードを実際見に行ったが、メイだと確信できる証拠なんてなかった。俺は色んな情報を頼りに、メイかどうか一か八かの賭けで部屋に侵入し、メイだとそこで初めてわかった。なのに、ジャックは放送を見ただけでわかった、なんて。
「有り得ねぇだろ…」 「有り得るんだよねぇそれが」
勝ち誇った笑みを浮かべるジャックに、俺は正直ぶん殴りたかった。しかしここは一先ず抑えて気付かれないように深呼吸を静かに行う。 よし、落ち着いた。
「まぁ確かにシドの後ろにいた奴はメイだった、俺が直接会いに行って確認したからな」 「えぇ!メイと会ったの!?ズルい!」 「一応任務だったからな」
ジャックが羨ましそうな表情で俺を見つめる。 メイが捕らわれているというのに、焦る様子のない自分達はおかしいかもしれない。ジャックになんでメイが捕らわれてるっつーのに普通でいられるんだ、と聞いてみた。
「んー…なんでかなぁ。メイが居なくなったって聞いたときは何にも考えられなかったけど、政見放送見てメイだってわかったとき、メイとまた会えるって感じたからかなぁ」 「また根拠のないことを…」
俺は頭を抱えた。ジャックは何の根拠があってそう言えるのか不思議でならなかった。いやいや、それよりも俺はジャックとこんな話をしに探していたわけじゃない。
「それよりも、お前に頼みたいことがある」 「頼みたいこと?めっずらしー。ナギが僕に頼みたいことがあるなんてさぁ」 「真面目に聞けって」
俺が人に何かを頼むことなんてなかったし、ほとんど自分で解決してきた。しかし今回ばかりは俺ではどうにもできない。だからといってジャックに頼もうとするのは間違いかもしれない。だってこいつ頼りなさそうだし、なさそうじゃなくて本当に頼りねぇかもしれねぇな。でも0組の中で一番メイのことを知っているのはジャック以外に見つからないから仕方ねぇ。 俺が真剣な表情をすると、ジャックもいつになく真剣な表情となった。
「今度の任務でお前ら0組が皇国工場内に潜入することになった」 「…へ?そんな任務、まだ聞いてないよー」 「ああ、その内隊長から伝えられるだろ」 「……まぁいいやぁ。で、それがどうしたのさ?」 「多分メイも工場に現れると思う」 「!メイが…?」 「工場内でもしメイに会ったら、無理矢理にでも連れ帰って来て欲しい」 「………」
あの時、メイを連れ帰ればよかったと後悔しても今更もう遅い。本当は俺が迎えに行きたかったが今回の任務は0組、ジャックにしかできないことで任せるしかなかった。 言っとくが今回だけだからな、と念を押して俺はジャックの前から姿を消した。
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