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 ナギは文句を垂れながら椅子に座る。私もベッドの上に腰をかけた。


「さて、と。ここに来たのはメイの安否を確認、ついでに皇国の偵察なんだけど」
「本当の任務は皇国の偵察だけだったんでしょ」
「奴等はそうでも俺は違うっつの。あー、それでだな」


 ナギは兜を手に持ち、自分の膝の上に置く。私はベッドの上で体育座りをしてナギを見つめた。


「今、皇国で新たに魔導アーマーが開発されてんだ」
「魔導アーマー…」
「その魔導アーマー、結構やべぇらしくてよ。…今度、それを破壊するための特殊部隊を皇国に送り込むことになった」
「特殊…部隊…?」


 特殊部隊と聞いて、思わずジャックの顔が脳裏に浮かんだ。なんでジャックの顔が浮かぶんだと私は首を横に振る。でもまさかとは思うが、その特殊部隊って。
 ナギは兜の上に両肘を置き、顔の前で手を重ねた。


「メイも多分もうわかってるだろ?」
「え…な、何が?」
「特殊部隊が0組だってこと」


 やっぱりそうなのか、そう思って肩を落とす。
 0組が強いことは百も承知で、その魔導アーマーを破壊できるのは0組にかかっている。それがどれだけ危険な任務だとしても、上の人達にとって0組は強くて使える駒としか見ていないことなどわかっていた。敵地に0組を投入することで、0組がどれだけ危険に晒されるか上の奴らもわかっているくせに、と心の中で毒を吐く。でもそうでもしなければ魔導アーマーを破壊することはできないと八席議会は踏んだのだろう。
 頭ではわかっていても、やっぱり0組だけを皇国に送り込むなんて無謀だな、と思ってしまう。黙り込む私にナギは溜め息をついた。


「とにかく、メイは今から俺と一緒にここを出るぞ」
「は…?」


 ここを出る、そうナギは言った。正直言うと、今すぐにでも帰りたい。だけど、今ナギから聞いた話を聞いてこのまま帰るという選択に躊躇してしまう自分がいた。
 中途半端な反応をする私に、ナギは眉間にシワを寄せた。


「お前…こんなところに居たいのか?」
「…そういうわけじゃない、けど」
「……はっきり言えよ」
「………」


 再び黙り込む私にナギは頭をガシガシとかいた。きっとはっきりしない私に苛立っているんだろう。


「ナギ」
「…ん?」
「私、残る」
「はぁ…そう言うと思ったぜ」


 やっぱ魔導アーマーのこと言わなきゃよかったかな、と呟くナギに私はごめんねと謝る。命からがらに来てくれたのに、帰らないと言われてしまったナギの気持ちに申し訳なかった。
 ナギは兜を手に持ち立ち上がる。


「どうせ0組が心配だからここで動向を探るとか考えてんだろ?」
「…ナギったらエスパー?」
「メイの一番の理解者だからな」
「ありがとう、ナギ」


 さすがずっと一緒にいただけあるなぁと感心してしまった。
 ナギは私のほうへ歩いてくると私の頭を両手でぐしゃぐしゃと撫でた。何するの、と両手を掴み上を見上げると苦笑を浮かべるナギと目が合った。


「無理だけはすんなよ」
「!…うん…」


 そっと両手を離すと、ナギは懐からある物を取り出し私に差し出してきた。ナギの手には真新しいCOMMが握られていて、またなんかあったらこれ使えよ、と手渡される。


「時間もねぇし、そろそろ行くな」
「うん、気を付けてね」
「おう。メイも気を付けろよ、…じゃあな」


 ナギは兜を被り、部屋の窓から静かに飛び降りる。私はそれを見送り、手渡されたCOMMを握り締めた。