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 テーブルの上に兜を置き右手で前髪をかきあげる。私はナギの登場に呆然とするしかなかった。


「……どうして」
「ま、こっちにも色々用があったんでね。それよりも」


 ナギの顔は笑顔だが、目が笑っていない。ツカツカとナギは私に近付くが、身の危険を感じた私は後退る。


「なんで逃げんだよ」
「な、ナギが怖いから」
「ほぉーさすが幼馴染み、俺のことよくわかってるねぇ」


 背中に壁が当たり私はナギから逃げられなくなる。ナギはもう目の前に来ていて、私は背筋が凍った。


「言いたいこと、めちゃくちゃあるんだぜ?」
「な、んでしょ…っ!?」


 ナギは私の両手首を掴み、壁に押し付けた。両手首を動かそうとしてもナギの力には敵わない。私はナギを見上げるとさっきまでの笑顔ではなく、真剣な顔付きになっていた。


「なんで言わなかった」
「…何を?」
「任務だよ、あんな危険な任務をどうして俺に言わなかった」
「………」


 淡々と言うナギに私は黙るしかなかった。あれは私だけに任された任務であって、他の任務を任されているナギを巻き込むわけにはいかなかった。でもそれを言ったところで、ナギを納得させることはできないだろう。
 私は気まずくなりナギから目線を外す。


「どうせお前のことだ、俺を巻き込むわけにはいかないとか何とか考えてんだろ」
「………」
「思えばイスカの任務が入ったときから怪しいと思ってたんだよ。だけどまさかお前がロリカ同盟の潜入任務を任されるなんてな」
「………」
「おまけに、イスカの任務が終わってすぐ無線でメイの通信が途絶えたって連絡が入るし、ロリカ地域に向かったらお前のチョコボだけしかいなかったし、チョコボに着いていったらお前のCOMMが粉々になって捨ててあるし、やっとの思いで皇国侵入したらシドの側近みたいな位置にいるし」
「………」
「俺がどんっだけ心配したかわかってんの?」
「……ごめん、なさい」


 ナギがどれだけ私を心配してたのか、ナギを見てればヒシヒシと伝わってくる。眉間にシワを寄せるナギに私は謝ることしかできなかった。ナギは言いたいことを全部言えたからかわざとらしく溜め息を吐くと、突然私の身体を引き寄せた。いきなりのことで私は焦り出す。


「ちょ、ナギ!?な、にすん」
「無事でよかった」
「の………?」


 ナギは私の身体をぎゅうっと抱き締める。小さく呟かれたそれに、私は抵抗するのをやめた。数秒抱き締めた後ナギはゆっくりと身体を離す。しばらく見つめ合っていると私の気のせいでなければ、ナギは段々と顔を近付かせてきているような気がする。


「…メイ」
「…ナギ…」


 鼻と鼻がくっつく前に私は自由になった両手を使ってナギの身体を思いっきり突き飛ばした。


「ってぇっ!」
「どさくさに紛れて何すんの!」


 尻餅をつくナギに私はゆっくり身体を起こし、冷たく言い放つ。全く油断も隙もあったものじゃない。雰囲気に呑み込まれないように気を付けなければ。
 お尻を擦りながらナギは空気読めよ!と訴えるが、心配したと言いながら何考えてんだと私は呆れるしかなかった。