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 軍事パレードが終わり、建物内に入ると深く被っていたフードを取る。前を歩いているシドに私はある疑問を問いかけた。


「……あの」
「なんだ」
「なんで、私を軍事パレードに?」


 そう言うとシドは足を止めゆっくりと振り返る。しばらく見つめ合うとシドはニヒルに笑い呟いた。


「見せしめだ」
「見せしめ…?」


 再び歩き出したシドに私はカトルに促され足を速める。長い廊下を歩いていると前から誰かが歩いてきた。
 すれ違い様にその誰かへ目線を送ると、相手も私を見ていてバチッと目が合う。自然と私の足は止まるが、相手は止まることなく歩いていった。その後ろ姿を見つめていると、シドが気になるか、と問い掛けてきた。


「やつは白虎のルシだ」
「ルシ…」
「…貴様もなるべき人間だったんだがな」
「!?」


 意味深な笑みを浮かべ再びシドは歩き出す。どういうことだと何回も問い掛けても、シドはそれに答えることはなかった。シドと別れた私とカトルは部屋までの長い廊下を黙って歩く。
 シドはどこまで私のことを知っているのか。私はルシになるべき人間だったなんて、一体どういうことなのか。色んなことがごちゃごちゃし過ぎて頭が痛くなってきた。
 部屋の前に着き、カトルが懐から鍵を取り出す。扉に着いている南京錠に鍵を差し込もうとしたが、首を傾げて鍵を懐にしまう。どうしたんですか、と聞けばいや、とだけ呟き部屋の扉を開けた。


「時間になったらまた来る」
「…いつもご苦労様です」


 軽く会釈するとカトルはふっと鼻で笑い、扉を閉めた。私は閉められた扉を見つめて溜め息をつく。
 シドとは今日で会ったのは二回目だが、カトルは毎日私の食事をわざわざ運んできてくれる。そのせいかカトルとは仲良くとまではいかないけれど、ちょこちょこ話したりする間柄となってしまった。


「…敵地にいるのに、何してんだろ」
「ほんっと何してんだよお前は」
「!」


 久しぶりに聞いた声に身体が硬直し、ゆっくりと声のしたほうへ振り向く。振り向いた先には皇国兵の戦闘服を着て、兜を脇に抱えてるナギの姿があった。ヘアバンドをしていないナギを見たのも久し振りだからか、顔を見たときは一瞬誰かわからなかったけど、髪の色と特徴的な声でナギだと気付く。
 私は開いた口が塞がらないといった状態だった。


「久し振りだっつーのになんだよそのアホ面」
「……な、ぎ?」
「おう。みんなのアイドル、ナギ様だぜ」


 相変わらずのナギに私は両手で口を覆った。