「え、マクタイに?」
「そ。俺とお前でマクタイの調査!朱雀が今度奪還作戦としてそこを襲撃するから密かに調査して来いだとよ」
「なんで私まで?ナギ一人で十分じゃん」
「まぁメイは俺の右腕だし?」
「まだ言うか!」


 クリスタリウムで本を読んでいると、ナギがいつの間にいたのか隣でニコニコと笑って座っていた。本当にこいつは神出鬼没だ、敵には絶対回したくない。
 ナギが私に任務だって言ってきたから、どんな任務なの、と聞けば冒頭の通り、マクタイの町の調査だった。


「めんどくさいな…ナギ一人で行ってよ。私が居たら足手纏いになるだけだし」
「いやいやいやー上からの命令なんでね。何が何でも連れてくぜ。大丈夫!俺が守ってやっから!」
「私そこまで弱くありませんから。自分の身は自分で守りますー」
「素直じゃねぇなぁ」


 ナギは頬杖をつきながらニヤニヤと笑みを浮かべている。その表情に内心イラッとしたが、再び本に目線を向けると今度は背中に衝撃が走った。


「なーに話してるのー?」
「………今度はジャックか…」


 衝撃の正体は0組のジャックだった。まぁこんなことする人、ジャックとムツキ以外いないんだけれど。
 本当、クリスタリウムに居ると必ずと言っていいほどジャックが現れる。あんたはストーカーか!と突っ込みたいくらいだ。でもこないだクラサメ隊長から怒られたせいか、授業は真面目に出ているらしい。しかしトンベリから聞いた話では、この前授業中にご飯を食べてクラサメ隊長に怒られたと聞いた。全く授業中に食事するとはなんという反抗的態度だろう。クラサメ隊長を不憫に思った。
 ちなみにトンベリとは良き友達として、たまにクラサメ隊長から預かったりする。トンベリと知り合った後私はクリスタリウムで必死に勉強し、モンスターとの会話術を身に付けた。ナギからもお前すげぇな、と感心され鼻高々だ。


「ねぇ、何の話してたのってばー」
「世間話です。重いから退いてください」
「えー」


 退けと言っても聞かないジャックに溜め息を吐く。ジャックに会ってから溜め息を吐くことが多くなった気がする。
 退かないジャックに仕方なく私は席を立った。するとジャックも体重をかけるのを止め、私の隣に立つ。ふとジャックを見上げる私に、ジャックは首を傾げた。


「……ジャックって背高いよね」
「そー?」
「うん。ナギ立ってみて」
「あー俺、ジャックより背小さいぜ」
「えっ」


 素直に驚いた。ナギも背が高いほうだと思っていたけど、ジャックのほうが高いとは思わなかった。喋り方とか幼いくせして身体は一人前なのか。


「メイは小さいよねぇ」
「確かにメイは小せぇよなぁ」
「うっさいな、君らが高すぎなんだよ!」


 2人してニヤニヤ笑うもんだからついムキになって言い返してしまった。クリスタリウムで視線を一気に集めてしまい、慌てて周りに謝罪をする。
 こいつらが悪いんだ、全部。ムツキじゃないけど、2人して私をいじめないでほしい。


「んじゃま、また行くときは無線使って呼び出すから。準備しとけよ」
「ぶっちしよっかな」
「そんときゃ俺が迎えに行くんでよろしく。じゃーな」


 そう言い残しサッと消えるナギ。ぶっちしたいけれど今までナギから逃げられたことなんて一度もないし、まぁ結局私に拒否権などないのだ。
 肩をガックリと下げ、本を手に取り元の場所に戻しに行こうとしたらジャックに肩を掴まれた。


「行くってどこへ?準備って何のことなのー?」
「…えーと。まぁ、任務だよ」
「へぇー。どこにー?」
「……内緒」


 任務内容は他組の人に教えてはならない。もちろん上からの命令で、だ。
 私やナギが担当する任務は汚れ仕事、まぁ所謂裏の任務なので他言無用とされている。公にはしない任務ということだ。いくら優秀な0組と言えど、他の組に内容を話すわけにはいかないのだ。


「なんで教えてくれないのさぁ。言えないことなのー?」
「そういうこと。じゃあ、私も行くから。あ、ジャック」


 私はジャックを見上げる。背高いなコノヤロウと思いながら、授業中にご飯は食べちゃダメだと注意するとジャックは驚いた顔でなんで知ってるのー?と聞いてきた。企業秘密だと口にするとジャックは不服そうに唇を尖らせる。
 モンスターと会話ができる、なんてことナギ以外には言えなかった。だって変人扱いされそうだ。そう思うと何だかんだ私はナギのことを一番信頼してるんだな、と感じた。

 ジャックがしつこく言い寄ってきたのでどうしたものか、と困っていると、この間ジャックを連れていってくれた少年に会い、ジャックをよろしくと言って渡してみた。そうしたら、任せてください、と言いジャックを引っ張りどこかへ連れていってくれた。
 あの少年保護者だな。名前はトレイって言ってたっけ。覚えておこう。