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『アギトとならん!!』


──ウォォオオッ!


 1人の皇国兵が腕を組み軍事パレードを静観していた。興奮している皇国民の中で1人だけ歓声も何も言わない皇国兵に、誰一人気付かなかった。
 皇国兵はシドを見つめ、シドの後ろにいるフードを深く被っている人物に首を傾げた。


(シドに側近がいるなんて聞いてねぇぞ)


 皇国兵だというのに自分の頭を呼び捨てにする。その皇国兵は軍事パレードを最後まで見ることなく、その場を後にした。

 皇国兵が次に向かったのは大きな工場だった。辺りを見渡し、どんな造りになっているかを頭の中に叩き込む。荷物をどう運んで来るか、どこから侵入できるか、と普通の皇国兵がそんなことを調べるだなんておかしな話だろう。
 一通り調べ終わった皇国兵は次にある所へと足を運んだ。一際目立つ建物の前に着くと自然と手に力が入る。今はまだ軍事パレードの途中なので、皇国兵や皇国民も皆シドに夢中だろう。
 建物の中に入ると見張りをしている皇国兵にそっと近付いた。


「なんだ、お前留守番か?」


 さりげなく、そして自然に話しかけた皇国兵に、留守番をしているであろう皇国兵が顔を向けた。


「…ああ、シド様の軍事パレードに行けねぇなんて、ついてねぇよな…留守番さえなけりゃ軍事パレードに行ってたのによぉ」
「そりゃご苦労さん。そいやぁ今軍事パレード見て来たんだけどよ、シド様の後ろにフードを深く被った人間がいたんだけど、お前あれが誰かわかるか?」


 自分がシド様と言うなんて、と心の中で毒を吐く。目の前にいる皇国兵はしばらく黙りさぁなと呟く。なんだ、こいつもわかんねぇのか、そう吐き捨てたかった。


「そうか、いや、俺しばらく出張しててシド様に側近ができたって今知ってよ。あんな小柄な奴にシド様を護れんのかって心配だぜ」
「だよなぁ!俺も少し見たけどよ、あんな奴がちゃんと護れんのかって思ったよ。…そういえば、あの小柄な奴最近シド様に仕えたばっかだって聞いたぜ」


 警戒心を解いた皇国兵に、気付かれないようニヤリと笑う。そうなんだ、と相槌を打てば目の前の皇国兵はペラペラと喋り始めた。


「何やらシド様のお気に入りらしいぜ。俺らみたいな普通の皇国兵が使う部屋よりも豪華な部屋に通されてるらしい。化けの皮を剥いでやろうにも、カトル准将もあいつの側を離れねぇし。本当何なんだよあいつ」


 そう愚痴る皇国兵に、腕を組んで耳を傾ける。
 最近シドに仕えたばっか、最近豪華な部屋に移動、カトルにも守られている、その情報を頭の中で整理する。それにしてもお前どうして帰って来たんだと質問され、また出張の命が出たんだよと答えると不憫だなと目の前の皇国兵は呟いた。
 その皇国兵と別れた後、豪華な部屋へと続く廊下に足を踏み入れた。