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 ジャックは噴水広場でボーッとしていた。いつメイを忘れるかもわからない、その恐怖でジャックは何もできないでいた。授業中もエイトに話し掛けられて終わったことに気付く始末だった。
 メイと離れてどれくらい経っただろうか。ジャックはぼんやりとメイの名前を呟く。メイの名前が出るということはまだメイは生きている証拠だ。溜め息を洩らすジャックの元に、トレイがゆっくり近付いてきた。


「ジャック」
「!トレイかぁ…どしたのー?」
「ミリテスの政見放送が始まります。ジャックも一緒に見ませんか?」
「…ミリテス…うん、行くー」


 ジャックはミリテスという言葉に反応して、重い腰を上げトレイの後ろを着いていく。
 軍令部に入るとクイーン、サイス、エイトが立っていた。トレイがジャックを連れてくると珍しいな、とサイスが呟く。ジャックはたまにはねぇとはぐらかし、軍令部に備え付けてあるモニターのほうへ目を移した。
 ミリテス政見放送が始まり、モニターにはシドと思われる人物と、シドの後ろにフードを深く被り顔を俯かせている人物が映った。ジャックはシドのほうに目をやり、次にフードを深く被っている人物へと目を移す。


「!」


 何かに気付いたジャックは目を見開きモニターを食い入るように見つめ、メイ、と呟いた。そんなジャックにまさか、とトレイが突っ込む。


「そうですよ、ジャック。メイさんがミリテス皇国にいるわけないじゃないですか」
「でも…!」


 ジャック以外の0組はメイが居なくなったということを知らない。ジャックはメイはミリテスに捕まったと続けようとした時、シドが喋りだした。ジャックは反射的に口を閉じモニターに集中する。


『過日、我ら皇国は、ルブルムに致命的な打撃を与え、ロリカ同盟を完全に沈黙させた。これは、より大きな革新への第一歩である!』


──ワァァァア!


 力強く言うシドに国民が沸き上がる。


『旧態依然とした習慣に甘んじ、古き秩序を奉じる行為は、進歩の放棄に他ならない。進歩をともなう変化を恐れぬことこそ真の皇国民である。同胞たちよ!銃を取り新しき秩序への道を拓け!我らミリテス皇国こそ、オリエンスの導き手アギトとならん!!』


──ウォォオオッ!


 国民の沸き上がる歓声が起こりそこで映像は途絶えた。ジャックは映像が途絶えた後もモニターをじっと見つめる。そんなジャックをよそにサイスは鼻で笑った。


「はっ、よく吠えるこった」
「オリエンスの覇権を握るため、アギトの名を利用しているのでしょうね。……それにしても、シドの後ろにいた人物は誰だったのでしょうか」


 クイーンは顎に手を当て首を傾げる。
 一方ジャックは不思議とその人物がメイだと確信していた。しかしジャックがメイだと言っても、クイーンたちは信じてくれないだろう。皇国は人質を捕らない、そう言われているしメイだとわかる証拠もない。
 ジャックは考えているクイーンたちを置いて、静かに軍令部を後にした。

 エントランスを歩きながらジャックは、メイが無事だとわかりホッと安堵の息を吐くのだった。