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 私が入った途端扉は固く閉じられた。行き場をなくした私は扉の前で固まり、そこでシドの後ろ姿を見つめる。背中を見つめているとシドがゆっくりと振り返った。


「…来たか」
「………」
「そう怯えなくてもいい、取って食いはしない」


 クツクツと喉を鳴らして笑うシドに私は、なんで私を呼んだんですか、と声をあげた。シドは目を細め、私を見据える。そして口を開いた。


「貴様は自分が何者か知っているか?」
「……何者って、」
「…そうか、わからないのだな」


 暢気な娘よ、そう言って少しずつ私に向かって歩いてくるシドに私は身体を強張らせた。
 自分が何者か知っているか?どうしてシドがそんなことを言うんだ。まるで、私が何者かを知っているような口ぶりじゃないか。


「…ど、ういうこと?」
「私が言うとして貴様はそれを信じるのか?」
「………」


 確かに、シドの言う通りだ。シドが言ったところでそれが真実かどうかわからない。もしかしたら私を混乱させるために嘘をついているかもしれない。でもよく考えたら、私をここに来させる必要がシドにはあった。
 私はシドにとって必要な人物なのか?そう考えて頭を横に振った。有り得ない、そう考えたかった。
 唖然とする私にシドは鼻で笑った。


「理解し難いだろうな。だがこれだけは言っておこう」


 シドは私の顎を掴んで無理矢理上へと向けられる。そしてニヤリと笑い、口を開いた。


「          」
「え…?」


 シドが放った言葉に私は理解ができなかった。言い終わった後、満足そうに笑い扉の外にいるカトルを呼び私を部屋から出した。そしてカトルに私を部屋に案内するよう命令した。納得のいかない私はシドに噛み付くように口を開いた。


「どうして私を殺さないの!?あんたたちにとって私は敵でしょ!」
「大人しくしろ」
「離せっ…!私を殺せ!」


 こんなところで監禁されるより死んだほうがマシだ。
 私は自分が恐かった。シドの言った言葉と、私の身に起こっているであろう不可解なことに頭がついていかなかった。カトルは暴れる私の両腕を掴み、シドから離れさせる。


「…貴様を殺すつもりなどない。刻がくるまでここで大人しく過ごしてもらう」
「なんっ…!」
「連れていけ」
「ハッ」


 なんで、そう問おうとしたがそれは叶わなかった。
 シドはすぐ部屋の中へと戻り、扉の前でカトルと私だけが残された。カトルは行くぞ、と呟き私の腕を引っ張った。私は肩を落とし重い足取りで歩を進めた。


「ここでしばらく過ごしていろ。食事は時間になったら持ってくる」
「…………」


 ひとつの部屋に着くとカトルは扉を開けて私を部屋の中へ入れる。何も反応しない私に、カトルはハァとわざとらしく溜め息をついた。
 部屋の扉が閉まると鍵をかけるような音が聞こえ、少しだけ顔を後ろに向けると、内側からは出られないようになっていた。私は備え付けてあるベッドに向け歩く。


(…どうなるんだろ)


 ベッドの前に着くとそのままベッドに身体を沈め、今の状況から逃げるように私は目を閉じた。


(貴様がどう選択するかがこの行く末の鍵となろう)