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 中型艦載艇に乗り、カトルと座る。窓から外を眺めているとクレーターの穴から大きな結晶が現れた。きっとあれが玄武クリスタルなのだろう。
 私が窓の外を食い入るように見つめていると、1人の皇国兵が近付いてきた。


「見つかったか」
「ハッ!完全な制御下に入るのは明朝一一◯◯の予定です」


 2人のやり取りを聞いて、玄武クリスタルは皇国の手中に納まったのだとすぐ理解した。本当に皇国のやることって、と溜め息が出そうになるのを堪えていると、カトルが不意に話し掛けてきた。


「…貴様、そういえば足を怪我していたな」
「……大丈夫です」


 そういえば皇国兵に足撃たれたんだった。でもこの艦載艇に乗ってから、足から痛みが感じられない。感覚が麻痺するほど深くはなかったはず。
 私はおかしいと思い、少し屈んで傷口を見てみた。


「な…」


 撃たれた場所には一切傷がなく、私は呆然とした。衣服には自分の血だと思われる血痕が残っている。確かに撃たれたはずなのに、あるはずの傷痕はどこにも見当たらなかった。
 固まっている私に気付いたカトルは、どうしたと声をかけてきたので私は慌てて姿勢を正して、平常心を保ち何でもないですと言った。


(なんで…?)


 モンスターのことといい、傷がなくなったことといい、明らかに自分の身に何かが起こっている。色々と有り得ない出来事に、私は自分に恐怖心を抱いたのだった。



 中型艦載艇がミリテス皇国本拠地に着き、私はカトルと一緒に艦載艇から降りた。カトルは艦載艇から降りる前に、私の手首に手錠をかけ着いてこいと言った。


(なんか、建物ばっかり…)


 歩きながら窓の外を覗くと、どこもかしこも建物だらけで色んな機械もたくさん動いていた。すれ違い様に皇国兵が殺気染みた目線を私に送る。
 敵国であるミリテス皇国に着てしまったというのに、不思議と私は落ち着いていた。どうしてこんなに落ち着いていられるのか、自分でもわからなかった。
 建物内へ入ってからしばらく歩くと、一際目立つ扉の前で止まった。カトルはその扉を叩く。


「シド様、お連れ致しました」
「しっ…!?」
「入れ」


 うろたえる私にカトルは構わず扉を開け、入れと言う。開いている扉に顔だけを覗かせると、シドらしき人物の後ろ姿が見え思わず後退りしてしまったが、後ろにはカトルが立っていて私に逃げ道はなかった。
 私は生唾を飲み込み、シドのいる部屋へと足を踏み出した。