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通信兵はシドがいる部屋へとノックをして入る。シドはゆっくり振り返ると、通信兵は右手拳を心臓に向けて口を開いた。
「閣下、09号より報告です。玄武にて捜索対象を発見、参号機の起動を開始。完全な制御下に入るのは明朝一一◯◯の予定です」 「ようやく来たか。…玖機関、代替品の方がよく働くとはな」 「…閣下、ロリカからの緊急通信が入りました」 「…どうした」 「クレーター付近に朱雀諜報員らしき人物を発見、始末しようとしたところクァールが命令を無視し、朱雀諜報員を庇っているようです。如何致しますか?」 「…現れたか。予言通り、ということか」 「は、はぁ…」 「その諜報員は私が預かる。丁重に案内するよう准将に伝えろ」
そう言うと通信兵は戸惑いながらも返事をし、部屋から出ていく。シドは椅子に座り、ニヤリと笑った。
「すべては娘次第…か」
* * *
「か、カトル…」
まさかこんなところでこうして対面するとは、思いもよらなかった。カトル、は皇国兵をかき分け私の前まで来る。といってもクァールがカトルを威嚇しているので、私からは結構離れているけれど。
「…貴様が朱雀諜報員か」 「…だから何?」 「シド様から丁重に案内しろとの命令を受けた」 「……は、シドが?ちょっ、待って。私を連れて行くの?」 「そっ、そうですよ、准将!何故朱雀の人間を皇国に…!」 「シド様の命令だからだ」
淡々として言うカトルに、皇国兵たちは呆然としていた。私も、どうしてシドが敵である朱雀の人間なんかを皇国に招くのか。何か裏があるに違いない。
「もう魔力もないのだろう?無駄な抵抗はやめて、大人しく我々と来てもらおうか」 「…嫌だと言ったら?」 「ならば無理矢理にでも連れていく。シド様の命令だからな」
命は奪わない、ただ私をシドの元へ連れて行くだけらしい。確かに今の私にはもう魔力なんて殆ど残ってないし、足も負傷していつものような動きもできない。 どうすればいいのか、私にはわからなかった。
「おい、」 「!」 「クァールたちに大人しくするよう命令してくれないか」 「わ、私が…?」 「ああ、貴様が命令をすればクァールたちは大人しくなる、とシド様が言っていたからな」 「………」
私はクァールたちを見ると、未だ皇国兵たちに威嚇を続けていた。命令すれば、と言ったが私の言葉がクァールに届くのだろうか。普通に喋ればいいのかな…。 私は戸惑いながらそばにいるクァールの頭を撫で優しく、威嚇をやめなさい、と呟いた。するとさっきまで皇国兵に威嚇していたクァールたちは、急に大人しくなった。それを見ていた皇国兵は驚愕の声をあげる。命令した私自身も驚きを隠せなかった。
「…一緒に来てもらうぞ」 「じゅ、准将!こいつは俺たちの敵ですよ!生かして、しかもシド様のところにお連れするなんて危険過ぎます!」 「シド様の命令だと言ったはずだ。お前たちもこいつには一切手を出すな、わかったらクリスタル回収の作業へ戻れ!」 「は、ハッ!」
カトルが声を上げると皇国兵たちは一斉に中型艦載艇に戻っていく。私は小刀を懐に忍び込ませようとしたが、カトルに腕を掴まれてしまった。
「手荒な真似はしたくない。中型艦載艇にはクリスタルジャマーも搭載している。魔力が使えなければ何もできないだろう?」 「…体術くらいならできるけど」 「ふ、我に敵うとでも思ってるのか?」 「………」 「聞き分けはできるようだな。あぁ、あと貴様が身に付けているソレは処分する」 「あっ…!」
そう言うと私から強引にCOMMを奪い、思いっきり踏みつける。粉々になったCOMMを見つめる私に、カトルは行くぞと私の腕を引っ張った。 体術を使うには体格の差があまりにも違う。私なんかが大の男に勝てるはずがない。こんなところで余計な体力を無駄にしたくなかったので、私は仕方なく抵抗するのをやめてカトルの言う通りにするしかなかった。
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