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「…はぁっ…はぁ…」


 魔法を撃てども皇国兵は中型艦載艇からどんどん出てくる。一体どれだけ皇国兵がいるんだ。
 私の魔力も残り僅かとなってしまった。だからもう武器を使って戦うしかなかった。


「っい…!」


 皇国兵の銃弾が足に当たり、鋭い痛みが私を襲う。動きが止まった私を見て、皇国兵は笑いだした。


「ふ、ははははは!もうお仕舞いだな、お嬢ちゃん?」
「………」
「けっ、んな怖い顔してかわいい顔が台無しだぜ?」


 ニヤニヤしながら近付いてくる皇国兵に、私は奥歯を噛み締めた。
 足を撃たれたから、なんだっていうんだ。私はまだ動ける…!
 思いっきり足に力を入れ、近付いてくる皇国兵の首に小刀を突き刺す。撃たれた足からはじわりと血が滲み、痛みに耐えられず地面へと転がった。


「っお前ぇぇ!このっ死にぞこないがぁあっ!」


 皇国兵の1人が私に向かって剣を振りかざす。
 避けきれない…!


「!がっああぁ!?」
「!?」


 私は死を覚悟したとき、目の前にいた皇国兵が突然何かに突き飛ばされた。周りにいる皇国兵たちは驚き、そして突き飛ばした何かへ目を見張る。
 そこには皇国軍に仕えている軍用クァールが、私を庇うかのように立ちはだかった。


「グルルルッ…」
「、クァール…?」


 どうしてクァールが敵である私を庇っているのだろうか。私はその光景にただただ呆然とするしかなかった。


「う、ああぁ!?」
「?!、どうした!」
「ク、クァールが命令に従わず檻を抉じ開けやがった…!」
「なっ…!」


 中型艦載艇から続々と降り立つクァール達は、一斉に私のほうへ走ってきた。そして皇国兵を突き飛ばしたクァールと同じように、私の周りに集まる。
 味方である皇国兵に向かって威嚇しているクァールに、皇国兵達は戸惑いの色を隠せなかった。


「ど、どういうことだ…!?」
「貴様…!クァールに何をした!」
「………(私が知りたい…)」


 私はクァールに何もしていない。今初めてクァールと会ったのだから、何かできるわけがない。皇国兵が混乱しているように、私も混乱しているのだ。この有り得ない状況に。


「…じゅ、准将に連絡を…!」


 皇国兵の1人が通信機を使って誰かを呼び出す。
 私は痛む足を押さえながらクァールたちを見渡した。一体どうしてクァールたちは私なんかを庇うのか。考れば考えるほど混乱してしまう。混乱している私に一匹のクァールがすり寄ってきた。


──護るから


「…え?」


 今、間違いなく誰かの声が聞こえた。私は咄嗟にクァールを見つめると自分の手をペロリと舐めた。
 まさか、クァールが?いやいやいや…私クァールと喋れないし…。


「准将…!」
「!」


 靴を鳴らして近付いてくる准将、と呼ばれた男。顔を上げると、その顔には見覚えがあった。諜報部でも話題が上がっていた。
 ミリテス皇国軍准将、カトル・バシュタールという男の名を――。