「聞いているのかジャック」
「ばっちり聞いてるってー。そんな恐い顔しないでさぁほら笑って笑ってー!」
「…………」
「わー!うそ!ごめんなさい!もう授業サボりません!…………多分」
「……はあ」


 教室で待っていたのは眉間にこれでもかってくらいシワを寄せたクラサメ隊長でした。他の皆はどっか行っちゃったし、僕だけ居残りで怒られちゃってます。


「まったく…最近何か良いことでもあったのか」
「えー?別にー………隊長なんでそんなこと聞くのー?」
「……とにかく、この課題を明日までに提出すること。提出しなければ私とマンツーマンで居残りをやってもらうからな」
「げぇ、隊長とマンツーマンだけは避けたいから頑張るよー」


 お得意の笑顔で課題の山をもらい教室を後にする。
 あーどうしようこの課題の山。明日までにやれだなんて隊長もとんだドSだよなぁ。まぁ真面目にやればちょちょいのちょいで終わるだろうし、頑張るかぁ。

 それにしても隊長なんであんなこと聞いてきたんだろー。まだ会って間もないのに。
 良いことねぇ。良いことといえばある人と出会ったことかなぁ…どこか懐かしいような、そんな感じ。今まで会ったことないはずなのに、どうしてそう感じたのだろう。まあ、僕にもよくわかんないし、お近づきになれただけでも良しとしようっと。
 それに0組以外の誰かと関わるの、案外楽しいしねぇ。



*     *     *



 ナギからようやく解放された私は、軍令部第二作戦課に用があるため立ち寄る。正直ここにはあまり来たくない。何故なら色んなお偉いさんが居ては自分がいかに偉いかを自慢気に言ってくるし、私が落ちこぼれ組だからかもっと頑張りたまえ、だなんてムカつくこと言ってくるからだ。
 どうかお偉いさんがいませんように、と扉を開ける。ラッキー、今日は誰も居ない。すぐカスミさんにこの間の報告書を渡し、軍令部第二作戦課から出ようとしたら扉の前にトンベリがいた。あ、この子が噂の。
 トンベリに会うのは初めてで好奇心が湧き、腰を落としてトンベリと目を合わせる。つぶらな瞳でじっと見つめられ、自然と頬が緩んだ。


「(かっ、かわいいっ!)」
「トンベリを前にして怯えないとは珍しいな」
「!」


 頭上から声がしたのでトンベリから目を外し、上を見上げる。そこにはあの『氷剣の死神』と恐れられたクラサメ・スサヤ士官がこちらを見下ろしていた。
 そういえば、クラサメ隊長は0組の隊長になったとナギから聞いた。じゃあさっきまでジャックのこと叱っていたのかな。
 そう思いながら立ち上がり、クラサメ隊長に挨拶をする。


「初めまして。噂は聞いています、私は9組所属のメイと言います」


 そう言うとクラサメ隊長は、少しピクリと反応した。そして一呼吸置いて、しっかりしているな、と言い出した。誰と比べているのかはわからないが、ありがとうございます、とお礼を言っておく。
 整っている容姿と凛々しい雰囲気がマッチしていて、ああ、女子生徒に人気があるわけだ、と納得してしまった。


「トンベリに興味があるのか」
「えっ、あ、まぁ…。こんな間近でトンベリを見たことありませんから」
「そうか…」
「あ、触ってもいいですか?」
「…トンベリに聞いてみるといい」


 クラサメ隊長はトンベリに目を向ける。私はもう一度腰を落としてトンベリと目を合わせる。トンベリと暫く見詰めあったあと、スッと頭を私のほうに出してくれた。
 これは、触ってもいいよ、ということなのか。


「…珍しいな」
「え?」
「いや、こちらの話だ」


 私はおそるおそるトンベリの頭に手を伸ばした。トンベリの頭をひとなでする。


「……(うわぁ、ちょースベスベ!めっちゃ気持ちいい!)」


 口には出さないが、心の中で感動する。トンベリに触れる機会なんて滅多にない経験ができ、私はニヤニヤが止まらなかった。少しの間撫でたあと、私はトンベリとクラサメ隊長にお礼を言って、軍令部第二作戦課を後にした。


「気に入ったか」
「……………」
「ふっ……そうか」


 今日クラサメ隊長のトンベリに触れたってナギに自慢しなきゃー!と興奮状態でエントランスを歩くのだった。