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――28日 深夜1時。

 私は自室を静かに出ると忍び足でチョコボ牧場へと向かった。この時間、ナギは既にイスカへと向かっていて私と会うことは絶対にない。ナギやジャックに罪悪感は多少あるが、これも立派な任務なので仕方がない。心の中で謝っておくことしかできなかった。
 チョコボ牧場に着くと、私を待っていたかのようにニンジャチョコボが鳴いた。私はニンジャチョコボの小屋へ行きひと撫でする。そして繋がられている鎖を外してチョコボに乗り、私は魔導院を出た。


「さて、と」


 ニンジャチョコボを走らせ私はロリカ地域へ出発した。

 ルブルム地方からトゴレス地方へ、そしてさらに北トゴレス地方へとチョコボを走らせる。北トゴレス地方のミィコウは昨日、朱雀軍が皇国から奪還することに成功した町だ。まだ復興まで時間はかかるが、今はもうだいぶ落ち着いていた。

 私はミィコウの町に立ち寄り、少し休憩をはさむ。ここから北へ行くと、ユハンラ地方に続く回廊があるので次はそこを目指した。


「行ける?」
「クエ」


 ニンジャチョコボが私の言葉に頷くと私はチョコボに跨がった。



 北の回廊に着いた私たちは静かに回廊の中へと入る。回廊内は静まり返っていて薄気味悪かった。


(……おかしい)


 異変に気付いた私は足を止めて周りを見渡す。回廊に入ってからモンスターの姿が見当たらない。ここは凶暴なモンスターがうじゃうじゃいると噂で聞いていた。
 しかし、そんな回廊の中はモンスターの姿なんて一切見当たらない。しばらく進んでいくと端に佇む火の玉が見えた。私は万が一のために武器を取り出し身構え、火の玉に近付く。
 その火の玉の正体はボムだった。ボムは私と目が合っても襲ってくる気配は全くない。何もしてこないモンスターに攻撃なんてできない私は、武器をしまいボムへと近付いた。ボムは静かに私を見守っている。


「…なんで攻撃してこないの?」


 モンスターの言葉なんかわかるはずないのに、私はボムに話し掛けた。もちろんボムからの返事はなく、ただゆっくりとまばたきをするだけだった。
 結局回廊内でモンスターと交戦することはなかった。

 回廊を出ると夜なのに蜃気楼ができるくらい辺りは暑く、私はローブとマスクを被りチョコボにも私と同じように装備させた。ユハンラ地方を横断すればロリカ地域に着く。
 チョコボを走らせながら、私は先ほどの現象について考えていた。


(そういえば)


 何か手掛かりはないかと、今までの出来事を振り返っていたときだった。思えば皇国軍と対峙したとき、私はクァールと戦うことはなかった。外界に出たときもモンスターは一切私に攻撃をしてこようとしてこなかった。
 でも、その理由が私には全然わからなかった。モンスターは私以外には襲うようだったし…私がおかしいのだろうか。考えれば考えるほど、何が何だかわからなくなってしまった。


「クエッ!」
「!」


 チョコボが鳴くとロリカ地域まであと少しのところまで来ていた。
 一気に緊張が走る。ロリカ地域に入ればもう周りは敵だらけ、私はいつ死ぬかもわからない。私はチョコボの背中を撫でると、覚悟を決めロリカ地域へと足を踏み込んだ。