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キザイアの町から帰ってきたナギと私は、報告書を書くついでにクリスタリウムへと来ていた。 2人して静かに報告書を書いていると、私の隣の席に誰かが座る。ちらっと盗み見ると私の苦手な人がにこやかに笑みを浮かべていた。少し引いてしまったのは言うまでもない。
「何を書いているのかね?」 「……クオンには関係ないでしょ」 「あぁ、確かに私は関係ない。だがメイのことを私は何でも知っておきたいのだよ。わかってくれたかな?」 「全くもって理解し難いです」 「何こいつ新手のストーカーか?」
ナギがすかさず突っ込みを入れる。それに対してクオンは失礼ですよと冷静に返す。私は書いていた報告書を裏返しにし、顔だけクオンのほうへ向く。クオンの机の上にはいつの間に持ってきたのか、分厚い本がどっさりと置いてあった。
「な、なにその本の量…」 「ああ、これらはキミと約束していた私のオススメの本だ。じっくり読みたまえ」 「なんだ新手の嫌がらせか」 「さっきから失礼な発言ばかりしますね。9組のナギ・ミナツチという男は」
今度は鋭い目付きでナギを睨み付けるクオンに、ナギはきょとんとした顔をしていた。全く動じないナギに少し感心してしまった。
「えーと…お前は確かクオン・ヨバツだっけ」 「初対面だと言うのに私の名前を知っているとは、流石9組といったところか」 「いやお前クリスタリウムで有名だし色んな意味で目立ってるから、候補生で知らない奴はいないんじゃねぇかな」 「そ、そうだったんですか…!」
何やら褒められたと勘違いをしているクオンに私は溜め息をついた。色んな意味で目立ってるだなんて、少なくとも私は絶対に言われたくない。まぁクオンが嬉しそうなら何も言わないけど。ああ、それよりも。
「クオン、そんなに一気に読めないからまずこの上の一冊だけ借りるね」 「あぁ、ではその本が読み終わったら私のところへ来てくれたまえ」 「うん、わかった。ありがとう」 「あ、その本のあらすじでも説明しましょうか」 「いえ結構です」 「では登場人物だけでも」 「結構です」
そうですか、残念ですと肩を落としクオンは大量の本を持って奥の書庫へと入って行った。あらすじを話し始めると無意識なのか、書いてある内容まで喋ってしまうから厄介だ。 クオンから借りた本を改めて見るとだいぶ傷んでいて紙も黄色く変色していた。借りたからには一応読むけど、これは一体どんな本なのだろうか。
「お前ってさ」 「…はい」 「厄介な奴に好かれるよな」 「ナギ含めてね」 「俺も厄介な奴扱いかよ!」
ナギって突っ込みが上手いような気がする。この人は絶対突っ込み派だな。 私は再び報告書を表に向けて筆を走らせる。ナギは書き終わったのか頬杖をついてずっと私を見ていた。見られてると書きづらいんだけど。あれ、たしかこの状況前にもあった気がする。
「書き終わったなら早く提出しに行きなよ、私見てたって退屈でしょ」 「そんなことないぜ、メイ見てても全然飽きねぇしな」 「私は嫌なんですけど…」
席を立つ気がないナギに私は肩を落とした。
結局ナギは私が書き終わるまで待っていた。しかも本当にずっと私のこと見てたし、どれだけ書きづらかったか…。2人して軍令部へ報告書を提出すると、諜報部員に私だけ呼び止められた。 ナギはそれに対して怪訝な顔をして、私から離れないように居座ろうとしたが追い出されてしまった。
「…何か」 「今度のイスカ奪還作戦にメイは参加せず、他の任務をやってもらいたい」 「何の任務ですか?」 「ロリカ同盟へ侵入し、ロリカの様子及び皇国軍の様子を伺って来て欲しい。皇国側に動きがあった。ロリカへ軍を進める気だろう」 「…わかりました」 「チョコボの使用を許可する、出発は28日夜に出るように。これはメイだけの単独任務だ、他の奴には気付かれないように注意しろよ」 「了解」 「必ず帰って来い。メイにクリスタルの加護あれ」
そう言うと諜報部員はサッと消え、諜報部員の気配がなくなると私は緊張を解いた。ナギにも知られてはいけないこの任務を隠しきれるか自信はないが、頑張って隠し通すしかない。
軍令部を出ると扉の横でナギが腕を組んで立っていた。やっぱりな、と思うと同時にすぐ私に詰め寄ってきた。
「結局なんだったんだよ」 「任務の話だよ」 「だぁかぁらぁ、何の任務なんだって聞いてんだよ」 「極秘任務だから教えられないよ」 「…ちっ」
明らかに苛立つナギに申し訳なく思うけどいくらナギだからって教えるわけにはいかないのだ。 ごめんね、とナギに謝ると頭をかいて無理だけはすんなよ、と私の頭を乱暴に撫でるのだった。
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