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 25日の早朝、私は朱雀兵の格好をして自室を出る。
 今日はキザイア陽動作戦が実行される日だ。今回は朱雀軍主力部隊に混じって任務を遂行するためこの格好で行動しなければならなかった。
 静かな廊下で伸びをしながら歩く。エントランスに出ると私に挨拶をしてくれる候補生がいたので一応私も挨拶を返しておく。もし私が候補生の姿だったら絶対挨拶なんてしてこないだろう。
 9組のマントをしているだけで白い目で見られるのだから。

 それから魔法陣でチョコボ牧場に入るとこんな朝早いというのにヒヨチョコボが出迎えてくれた。


「いつもお出迎えありがとね」
「ピーッ!」


 二匹のヒヨチョコボが翼をバタバタさせる姿は愛らしくて心がホッコリとした。
 しばらくヒヨチョコボと戯れていると魔法陣が反応したので振り返ると朱雀兵の姿をしたナギが立っていた。


「おはよーさん」
「おはよ」
「もうヒショウには許可もらってるから。メイはあのチョコボで行くんだろ?」
「もちろん」


 もうヒショウさんに許可をもらってるなんてナギって本当に要領がいいと思う。ナギの言うあのチョコボというのは私になついているニンジャチョコボのことだ。
 私はニンジャチョコボのいる奥の小屋に向かう。すると私の気配に気付いていたのか小屋から顔を出して待っていた。感心しながらチョコボの首を撫でると気持ち良さそうに鳴いた。


「よしよし、今日は頼むね」
「クエッ」


 まるで任せろとでも言うように元気よく鳴くチョコボに自然と笑みが溢れる。


「あぁ、そういえば」


 私はニンジャチョコボの鎖を解いているとナギがチョコボを連れてこちらに来る。ナギは思い出したかのように喋りだした。


「朱雀軍令部が29日にイスカ奪還作戦を実行させるってよ」
「29日?もうすぐじゃん」
「ああ、それで今回も候補生部隊を使うらしいぜ」
「…ふーん」
「気になるか?」


 チョコボの鎖を外し小屋の外へと誘導する。ナギは既にチョコボに乗っていて少し意地悪い笑みを浮かべて私に問いかけた。


「…まぁ全く気にならないって言ったら嘘になるけど」
「ま、そりゃそうか。最近メイはジャック以外の0組の奴らとも仲が良さそうだしな」
「…何が言いたいの」
「いや、別に」


 ニンジャチョコボの背に乗るとナギのチョコボが歩き出した。私もチョコボの後ろを歩くようにニンジャチョコボに合図を送る。
 次のイスカ奪還作戦に0組が出るとしたら、今回のキザイア陽動作戦が終わってすぐに奪還作戦に参加させられることになる。いくら0組が強いからって1日2日休んですぐ作戦だなんて、軍令部は本当に人使いが荒いな。


「ナギもイスカ奪還作戦に参加するの?」
「まぁなー」
「そっか…気を付けてね」


 ナギもイスカ奪還作戦に参加するのか。私はイスカ奪還作戦のことについて未だに何も知らされていない。
 じゃあ私は魔導院で待機ということだろうか…いや、それは有り得ないな。きっと何かしら命を下されるだろう。
 ナギは走るぞ、と言いチョコボを走らせる。ニンジャチョコボもそれに従いナギの後を走るが普通のチョコボとは違うからか、すぐナギのチョコボを追い抜かしてしまった。


「は、はや…っ!」
「おーさすがニンジャチョコボ。俺もそいつに乗りたくなってきたぜ」
「クエッ」
「ぷっ、ナギはイヤだってさ」
「ちぇ、つーかメイ以外乗せる気ねぇだろこいつ」


 ナギから顔を背けるチョコボに笑みが溢れる。今から任務だというのにナギのこの緊張感の無さに私は何度も救われたんだ。どうしてかリラックスできるんだよね。
 面と向かっては恥ずかしくて言えないので、ナギの背中に向かって私は心の中でありがとうと呟いたのだった。