42.5
俺はジャックに言いたいことがあった。あいつがメイの部屋に行くことは大体予想はついている。だから俺は先回りしてジャックがここを通る前に、あいつが来るのを待っていた。
少ししてジャックがこっちに歩いて来るのがわかった。自然と目付きが鋭くなる。おっと、一応仲間なのにこんな恐いカオしちゃいけねぇよな、気を付けねぇと。
「よぉ、ジャック」
「どーもぉ」
短い挨拶を交わすとジャックは何事もなかったかのように歩き続けたので、俺はジャックの前に立ちはだかった。ジャックの眉が少しだけ動く。
「僕になにかー？」
「ああ、お前にちょっと用があるんだよ」
「……手短にお願いねぇ。僕これからメイに会いに行く途中なんだから」
「そのメイのことなんだけどな」
「………」
俺は少しだけ笑ってジャックに吹っ掛けるように喋るとジャックはより一層眉間に皺が寄った。
おいおい、いつものポーカーフェイスはどうしたんだよ。まさか今の自分に気付いてないのだろうか。
俺はここじゃ落ち着かねぇからと言いできるだけメイの部屋から遠ざけようとしたが、ジャックはそれを見抜いていた。
「ここじゃダメなのー？」
「いや別にダメじゃねぇけど」
「まだ人通りないんだからここでも大丈夫だよねぇ。それに、ナギの話が終わったらすぐメイに会いに行くから遠くに行かせようとしたって無駄だよー」
「…この野郎」
すぐに会いに行きたいだと…！俺も今すぐにでも会いに行きたいっつの！でもこの後用があるから行けねぇし…。
自分を慰めるように少しだけ笑いジャックを見る。ジャックはどんなもんだというような笑みを向けてきたので思わず舌打ちが出そうになる。それを誤魔化すように咳払いをして、ジャックに約束だと言った。
「…約束？」
「ああ」
「何の？」
「男同士の、だ」
そう言うとジャックは口元を引きつらせた。大方気色悪いとでも思ってるのだろう。
俺は確かめるように気色悪いとか思ってんだろ、と突っ込むと少しだけ目を見開かせた。図星だったのか。
「それで何の約束するのー？」
「…メイに触るな」
「あはー無理だねぇ」
「即答かよ」
頭の後ろで両手を組み即答するジャックに、俺は片手で頭をかきそれくらい予想済みだというように、わかってたけどなと吐き捨てる。そして開き直るように続けた。
「俺だってメイに触りてぇの我慢してんのにお前ばっかり狡いんだよ」
「…嫉妬ー？」
「わりぃか」
俺だってメイに触りたいと思ってる。ジャックに開き直りやがったと思われてもしょうがねぇ。こいつなんかに嫉妬するなんて俺もまだまだ子どもだよなぁ。
「そうだな、手を触る程度なら目を瞑ってやる」
俺だって鬼じゃない。好きな人に触りたいと思うのは俺もわかるから。
「なぁジャック、お互いフェアでいこうじゃねぇの」
「フェア？」
「ああ」
フェアでいこうとジャックに提案すると少しだけ戸惑いの色を見せた。きっと俺がこの言葉を言った意味を理解したのだろう。脅かすように恐いのかと問うとジャックは固まる。図星だったのだろう、俺は心の中でガッツポーズをしていたらジャックは気持ち悪いと呟いた。
「おい気持ち悪いって聞こえてんだけど」
「え？僕言ってたぁ？」
「お前わざとだろそれ」
わざとだとは思うけどそんなことは置いといて。俺はいつになく真剣な表情でジャックを見つめる。ジャックは諦めたかねように両手を下ろしわかったと頷いた。
言ったよな、こいつ今わかったって言ったよな？いや待てこいつにはしつこいくらいに言わないと絶対忘れそうな気がする。きっとジャックはメイのことになると必死だなとでも思ってるのだろう。そりゃ必死になるさ、小さい頃からずっとあいつのことが好きだったんだから。
普段俺がこんな姿をさらけ出すことなんてないからなのかジャックは若干驚いた表情で見ていた。
「わかったって言ってるじゃん、しつこいなぁ」
「お前その言葉忘れんなよ！？」
そう言うと無線に連絡が入った。はぁ、もうそんな時間か。
「じゃ俺はお前と違って忙しいからもう行くけど、あんま度を超したことするんじゃねぇぞ」
「さぁ、どうだろうねぇ」
「ま、そしたら俺もジャックと同じことするまでだけどな」
時間が迫ってきた俺にジャックはからかうように言ってきた。そんな挑発、俺には効かねぇよと思いながらジャックに言い返すと思いっきり顔を歪ませた。こいつもメイのことになると分かりやすい表情するんだな。
俺は余裕の笑みをジャックに見せてからメイの部屋の方向とは逆の道を歩き出した。
さ、宣戦布告はしたぜ。これからは遠慮しないからな、メイ。
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