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 ジャックに引っ張られ着いたのはテラスだった。私とジャックはテラスのベンチへ向かうと誰かがジャックの名前を呼んだ。


「ジャック?」
「えっ、あぁエイトかぁーびっくりしたぁ」
「と、そっちは…あの時の」
「あ、その節はどうも」


 エイトくんはテラスの死角にいたからか急に呼ばれた拍子にジャックは身体を強張らせた。その隙に私は勘違いされたくないためにジャックの手を振りほどく。戦闘のときエイトくんだけは武器を持たないから、この子は私の中で印象強く残っている。


「あ、メイ!とあなたはジャック…だったよね」
「!アキ」


 エイトくんに気をとられていたからなのかすぐ近くにアキがいることに気がつかなかった。ジャックはアキを見てどうもぉと気の抜けた挨拶を交わす。ふとアキの隣を見たら見慣れない人がいた。その子は私と視線が合うとすぐ顔をそらした。


「あぁ、この子は私の妹のフユっていうの」
「フユ…さん?」
「まだ訓練生だけど、がんばり屋よ。ちょっと人見知りなんだけどね」


 ほら挨拶しなさい、とフユさんに言うアキにフユさんはオドオドしながら初めまして、と呟いた。


「初めまして、9組のメイです」
「9組…て落ちこぼれの…?お姉ちゃんでもこんな人と友達になるんだね…」
「こら、フユ。人を見かけや噂で判断しないの。メイは落ちこぼれなんかじゃないんだから」
「ご、ごめんなさい…」
「ううん気にしてないから」


 フユは恥ずかしいのか両手を後ろに組んでアキの後ろに隠れる。アキはジャックとエイトに向き直った。


「0組はもうここにはすっかり慣れたみたいだね?」
「あぁ、お陰さまでな」
「メイもいるからねぇ」
「…お姉ちゃん、0組の人とも友達なの?すごぉぉい…」


 アキとエイトとジャックのやり取りを見てフユさんは羨ましい眼差しを向けていた。私がフユさんを見ていることに気付くと顔を俯かせてしまった。


「ねぇお姉ちゃん、私クリスタリウム見に行きたいな…」
「うん、わかった。それじゃメイ、エイト、ジャックまたね」
「うん、またね。フユさんもまたね」
「あ、はい…」


 フユさんにも別れの挨拶を言うと戸惑いながらも返してくれた。アキとフユさんが行った後暫く私たちの間に沈黙が走る。
 私はこの気まずいような空気に耐えられず話を切り出した。


「え、とじゃあ私は戻ろうかな」
「えぇ、じゃあ僕も」
「待てジャック。この後オレたちは授業だろ」
「う…」


 エイトくんがすかさずジャックに突っ込む。ジャックは歩こうとする足を止めて私を見つめてきた。いや、そこで私を見つめられましても。


「えぇっと、メイさんだったよな」
「え、はい。何でしょう」
「トレイから聞いた。いつもジャックが世話になってるらしいな…すまない」
「いやいやとんでもないです」


 0組のほとんどの子からそう言われているような気がする。一体トレイはどんな話をしたのだろうか。


「オレはエイト、てわかるか。よろしくな」
「あ、こちらこそよろしくお願いします、エイトくん」
「……エイトでいい」


 くん付けは慣れないから、と付け足すエイトくん…エイトにそれなら私もさんはいらないから、と言うとジャックが突然後ろから抱きついてきた。首元にジャックの息がかかって少しくすぐったい。


「い、いきなり何…!?」
「……べっつにー」
「…はぁ。ジャック、行くぞ」
「………」
「ほらジャック、授業行かないと」


 そうジャックに言うとより一層抱き締める力が強くなった。エイトが困ったように片手を頭に抑えていたので私はジャックの腕を叩く。ジャックは少しだけ反応するがやっぱり私を離さない。私とエイトが諦めかけたその時だった。


「ジャックお前何しちゃってるわけ?」
「!」


 突然ナギの声が聞こえたと思ったらジャックはパッと私を離した。私はナギの声がした方向へ顔を向けるとベンチに座り、こちらをにっこりと笑って見ているナギがいた。
 顔は笑ってるくせに目が笑っていないのは気のせいだろうか。


「俺との約束もう忘れちゃったとか言うなよ?」
「まっさかー。忘れるわけないよぉ」
「だよなぁ」


 笑い合うジャックとナギに私とエイトは状況が把握できないでいた。一体いつからナギは居たのだろう。


「ほら、さっさと授業行けよ」
「うるさいなぁわかってるよー。じゃあまたねぇメイ」
「え、あ、うん」
「エイト行こー!」
「あ、ああ」


 ジャックはエイトを連れてテラスから出ていく。私はナギとそれを見送るとナギがこちらに来て私の頭を平手で殴った。


「った!な、なにす」
「メイ俺の言ったこと覚えてるか?」
「う……」
「覚 え て る か っ て 聞 い て ん だ け ど」
「……すみません」


 抵抗しなさすぎ、とつい最近言われたばかりなのにすっかり忘れてた。抵抗しなかった私が悪いのだろうか。ナギにとっては悪いんだろうけど、ジャックの行動に慣れてしまったと言えばまた頭を叩かれた。


「慣れたから、じゃねぇっつの」
「痛い…!」
「俺の心のほうが痛いんだけど」


 あいつも油断ならねぇとナギは呟く。私はナギにそういえばジャックと何の約束したの、と聞いてみたが男同士の約束だとしか言ってくれなかった。


「男同士の約束?」
「ああ、ま、あいつ真っ先に破りやがったけどな。あの野郎あとでシメてやる」


 ナギは指の関節をボキボキ鳴らしながら目を鋭くさせる。あとでシメられるだろうジャックに合掌しておく。


「あ、明日任務なのわかってるよな?」
「わかってるよ」
「なら良いけど。明日朝イチでチョコボ牧場に来いよ」
「え、なんで?」
「チョコボに乗って移動するからだよ、じゃまた明日な」
「わかった、またね」


 ナギは私の頭をひと撫でするとテラスからサッと消えた。忙しい人だなぁと思いながら私も自室に戻るのだった。