ジャックとサロンに来てどれくらい経っただろうか。話と言ってもジャックがほとんど喋っているし、私はただ受け答えしてるだけだ。幼馴染みとは何か、とかナギとは昔はどんな関係だったかとか諸々。どんな関係と言われても幼馴染みは幼馴染みだからという他なかったが。
 でもなんでこの間会ったばかりのジャックがナギと私の関係を気にするのだろう。


「おいおい、お前なんでそんなに俺のこと知りたいの?ストーカーになるつもりか?」


 頭上からナギの声が聞こえると同時に私の頭に圧力がかかった。
 いつの間にここに来たのだろうか。さすが神出鬼没と言われるだけある。全く気配に気付かなかった。


「…ナギ重い」
「あれ、いつの間に居たの?ナギってほんと神出鬼没だよねー。気持ち悪いくらい。ていうかー、ナギのストーカーなんてするわけないじゃーん。気持ち悪いなあ」
「まあ、一応コレが売りだからな!つーか気持ち悪い二回も言うなよ!傷付くっつの!」


 どや顔で言うナギにそうなんだーと笑顔で対応するジャック。ていうか今さっきさらりとナギのこと気持ち悪いって言ったよね。しかも二回も。
 ジャックでもそういうこと言うんだと思いながらナギに振り返る。そもそもこんなことになったのはナギのせいだったことを思い出した私はナギに捲し立てた。


「ちょっとナギ!ジャックになんで私が任務でいないこと言わなかったの?ジャックずっと待ってたって、年上なんだから苛めちゃダメだよ」
「えっ!メイ任務だったの!?初耳だしー!だから会えなかったわけだぁ」
「わりぃわりぃ。まさか気付かねぇなんて思わなくってさー」


 全く悪いと思っていない素振りのナギにジャックは一瞬眉間に皺を寄せて不服そうな顔をする。なんだ、そんな表情もできるんだ、と盗み見ていたらすぐパッと笑顔に戻り「ナギは年上のくせに意地悪だねぇ」と言った。
 どうして笑顔を絶やさないんだろう?別に怒ってもいいのに。


「挨拶代わりだって!いいじゃん、結局会えたんだから」
「…まぁ、確かにそうだけどねー」


 私を見てフフフーと笑いかけてくるジャックに、私は苦笑いで返しておいた。


「あー!居た!トレイ!居たよジャック!」
「あ、ケイトじゃーん。あれ?トレイも。どしたの?2人して」


 サロンに男女の声が響く。声のした方に顔を向けると赤髪の少女と金髪の少年が側にやってきた。どうやらジャックを探していたらしい。ジャックと同じ朱のマントを纏っていることからすぐ0組の子だと気付く。


「どしたの?じゃないわよ全く!堂々と授業サボって!隊長にジャック呼んでこいって言われたから探してたんだよ」
「そうですよ、ジャック。最近あなたは授業を疎かにし過ぎです。クラサメ隊長からじゃなくマザーからも叱られてしまいますよ?」
「えー、マザーに怒られるのはイヤだなー」


 2人はやれやれ、といった表情でジャックを見ていて、ふと赤髪の少女と目が合った。少女はずいっと顔を近付かせ口を開く。


「つーかあんた誰?まさかジャックを引き止めてたわけじゃないでしょうね」
「え、いやそれは逆なんですが…」
「そうだぜ。メイは別に引き止めてたわけじゃねぇよ。なぁジャック」


 ナギが助け船を出してくれ、ジャックに目線を送る。ジャックはそれに気付いたのか気付いていないのかわからなかったが、へらりと笑って「僕が引き止めてたんだよー」と言った。


「そうだったんですか。それはそれは…ジャックがご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「そ、そんな丁寧に謝らなくてもいいですよ!ほ、ほらジャック!授業行ってこい!」


 私はジャックを立ち上がらせて、少女と少年の前に押し出す。ジャックは笑いながら、えー、とか言っていたが無視して魔法陣のところへ行かせた。
 少女はジャックを連れて、少年はぺこりと頭を下げ魔法陣から消えて行く。とりあえず一難去った。そう思ったが、振り返った瞬間ナギの笑顔が目に留まりげんなりする。一難去ってまた一難、と溢す私にナギが口を開いた。


「さぁて、俺の何を話したか、詳しく教えてもらうぜ?」
「……めんどくさいんで拒否」
「俺から逃げられると思ってんの?」
「………」


 ナギはニヤリと笑い、ソファの腰掛けの所をポンポンと叩く。どうしてこうなるんだ、と頭を抱えたくなった。