41





 今度の任務に向けて身の回りの準備をしているとカルラから無線で呼び出された。どうしても来てほしいというので私は仕方なくサロンへと向かうことにした。
 部屋を出ると突然視界が真っ暗になった。しかも誰かに包まれている。私はあまりのことに吃驚してしまい思いっきり相手の鳩尾を殴った。


「ゔっ……」
「じゃ、っく!?」


 お腹を抑えうずくまるジャックの姿が目に入った。なんだかデジャヴを感じたのは気のせいだろうか。


「ごめん!本当にいきなりだったからつい…」


 気配を感じる前に抱き着かれるなんて私も落ちぶれたものだ。これからは気を付けなければ。主にジャックから。
 未だうずくまっているジャックにある光景が頭の中をよぎった。そういえば前にもナギの鳩尾を殴った記憶があったっけ。


「う〜…」
「ごめんジャック、大丈夫…?」
「……メイがチュウしてくれたら治るかもぉ」
「………」


 うずくまった状態でぼそりと呟くジャックに私は肩を落とした。そういうことを言えるなら大したことないだろう。
 私はジャックの頭を優しく撫でて歩き始める。ジャックは慌てて身体を起こし私を追い掛けてきた。


「ぶー…撫でるだけじゃ足りないんだけどなぁ…」
「何言ってんの。私も悪かったけど、突然抱き着いてくるジャックも悪いんだからね」
「だって早くメイに会いたかったんだもーん」
「…………」


 昨日の出来事を思い出してしまい赤面しそうになるのを必死に耐える。ジャックの顔は見ないように、そしてジャックから私の顔が見えないように少しだけ距離をとった。


「なんで距離取るのー?」
「……何となくだ!」
「あは、メイかわいー」


 せっかく距離をとってるのに再び距離を縮めてくるジャックは絶対に確信犯だと思う。



 私(とジャック)はサロンに着くとカルラが手を振ってお出迎えをしてくれた。カルラはジャックに気付くと今日はデートだった?と私に耳打ちしてきた。


「んなわけないでしょ」
「あら、そうなの?」
「そうです!で、何なの用って」


 カルラはジャックをちらりと見て私を見る。ジャックは私とカルラをニコニコしながら見守っていてある意味不気味だ。カルラはふーん、と興味なさそうに呟き腰に手を当て右手の手のひらを上にして私に差し出した。あー、まさか。


「……お金?」
「さすがメイ、わかってるわね!」
「そりゃね…。理由は?」
「ふふ、あのね今大きなビジネスをものにするチャンスなんだけど、ちょーっと手元が足りなくて」
「大きなビジネス…?」
「そ。いくらメイでも教えるわけにはいかないのよね」
「……危ないビジネスじゃないでしょうね?」
「あったり前じゃない。私を誰だと思ってんのよ」


 自信満々のカルラに私は溜め息をつく。大きなビジネスというのがどんなものなのかすごい気になるがカルラは口を割ることはしないだろう。何しろお金が関わっているんだから。


「…いくら?」
「メイは話が分かるわね!そうねぇ、1000ギルだけ貸してくれない?」
「…ん」


 私は懐から財布を出し1000ギルを取り出すとカルラは機嫌良くそれを受け取った。


「ま、返済に関しては期待してないから」
「ありがとメイ!大丈夫、そのビジネスが成功したあかつきにはドドーンと返すからさ!それじゃあね!」


 ハイテンションのままカルラは私に手を振りながらサロンから出ていった。私は呆れ顔でそれを見送るとジャックが肩を叩いてきた。


「んー?」
「カルラに貸しちゃって良かったのー?」
「ああ」


 ジャックは知らないだろうがカルラは案外ちゃんとしている。前にお金を貸した時も後になってきちんと返ってきたから大丈夫だと言うとジャックは少しだけ不服そうにふーんと呟いた。


「まぁジャックはカルラと会ったのなんて最近だもんね」
「…ねぇ、メイとカルラはさぁいつから知り合いなの?」


 カルラといつから知り合いだったのか、なんか聞いてジャックはどうするのだろうか。別に答えたくないわけではないしやましいこともないから答えるには答えるけど。


「うーん…訓練生のころからかな…?」
「…ふーん」


 自分から聞いておいてその返事かと突っ込む。ジャックは両手を頭の後ろで組んで真面目な顔で私を見つめた。私はそれに少しだけ怯む。急に真面目な顔になったりするのは反則だと思う。


「…僕も」
「…うん?」
「もっと早くメイに会いたかったなぁ」
「は?」


 そう言うジャックに呆気にとられているとジャックは照れ臭そうに笑い私の手を取り魔法陣へと歩き出した。初めて照れ臭そうに笑ったジャックに私までつられて照れてしまったのだった。

 ジャックに気付かれなくてよかった…。