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 後ろを振り向くと眉間に皺を寄せ腕組みをしているナギが堂々と立っていた。手には任務の内容が書かれているであろう用紙が握られていた。


「く、来るの早いね」
「まぁな」


 眉間に皺を寄せたまま手に持っている用紙を私に差し出す。私はそれを受け取ろうとしたときナギがスッと用紙を上にあげたので私の手は空をきった。
 なんのつもりだとナギを見上げると目と鼻の先にナギの顔が現れた。鼻と鼻がくっつきそうになる私とナギ。


「な、ぎ?」
「………」


 何にも喋らないナギに私は少しずつ顔を離そうとするが私の後頭部にはいつの間にかナギの手で抑えられていた。ならば下を向けば、と顎を下げようとしたら反対の手で顎を持ち上げられる。用紙はいつの間にか机の上に置いてあった。


「なっに…?」
「………」
「え、ちょ、近い、近いですよナギさん」


 真剣な顔で私の目を真っ直ぐに見つめるナギに鳥肌がたつ。顔が近い。息がかかりそう。ていうか恥ずかしい。


「や、やめ…」
「…お前抵抗しなさすぎなんだよ」
「は…」
「俺だって男なんだぜ?まぁそんだけ信頼されてるっていうことなんだろうけど」


 後頭部からパッと手を離したナギに重心が後ろへと傾く。座っていた場所がベッドでよかった。椅子とかだったら床に背中ぶつけていたかもしれない。いや、そんなこと暢気に考えてる場合じゃない。


「なななナギあんた…っ!」
「危機感無さすぎなんだよお前は。だからジャックにも付け入られるんだっつの」
「つ、付け…!?」
「任務のときはすっげぇ敏感なくせにこういうのには鈍いんだな」
「う…」


 鈍いんじゃない。ただ耐性がないだけだ。今まで男の人と関わってきたことなんてまるでなかったからこれは不可抗力だ。
 そう私は思ったけれどナギに反論すれば倍となって返ってくるので黙っておくことにした。ナギは机に置いてある紙を取り私に差し出す。


「キザイア陽動作戦?」
「ああ、要塞攻略に成功したからな。キザイアを占領する皇国軍に攻撃するんだとよ」
「ふーん…」


 紙にはキザイアを攻撃する云々が書かれていた。そこには0組も4名が選出され陽動作戦に参加することも書かれてあった。0組、という文字にドキッとする。まさかとは思うがジャックはこの作戦に参加するのだろうか。


「ま、今回は他の候補生と接触することはねぇと思うぜ」
「?どういうこと?」
「俺とメイの任務が諜報部から任された任務だからな」


 なるほど。ならば公にはならないということか。というかまたナギと一緒の任務なんだ。そう思いながらナギをちらりと見るとなんだよと突っ込まれた。


「別にー」
「また俺と任務かーとでも思ってるんだろ」
「………」
「はい図星ー」
「うっさい!」


 ニヤニヤするナギに私は少しだけイラッとした。ナギは私の性格を分かりすぎてるような気がする。若干それが気持ち悪くも感じてしまった。


「ナギとメイは朱雀軍主力部隊として参加。キザイアにてコロッサスを確認、2人はコロッサスの撃破に向かってほしい…」


 紙にはそう書かれてあった。25日まではまだ時間があるので各自陽動作戦の準備をしておくように、と最後はそれで締められていた。ナギを見上げるとそういうことだから準備を怠るなよと言い私の頭を小突いて部屋から出ていった。

 小突かれたところを擦りながら再び紙へと目を移し、0組という文字を見て溜め息をつくのだった。