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 落ち着きを取り戻した私は後ろを振り返る。ジャックは満面の笑みを浮かべて今にも私に飛び付こうとしているがエースに抑えられていた。エースって意外と力あるんだな。


「メイ久し振り!僕がいなくて寂しくなかったー?」
「いや別に…」
「もうっメイったら照れ屋さんなんだからぁ!」
「明らかに照れてないだろ」


 エースがジャックにツッコミを入れる。これはこれで新鮮だ。


「エース放せぇー!」
「…放していいのか?」
「…ジャック」


 いい加減エースに迷惑はかけられないので私は真剣な顔でジャックを見る。ジャックはまだ少しだけ笑っていた。


「私に抱きつかない?」
「えぇー!なんでぇ!」
「……ブリザドでもお見舞いしようか」
「ごめんなさい。抱きつきません!」
「…エース、放していいよ」


 そう言うとエースはゆっくりとジャックを放す。ジャックはエースが放したとわかると私の腕を掴んで突然走り出した。


「ちょっ」
「またねぇエース!」
「お、おい」


 まだ紅茶もサンドイッチも残っていたのに私たちはリフレッシュルームを飛び出す。呆気にとられたエースと目が合ったと思ったらすぐにエントランスの景色が広がった。
 ジャックが足を止めてこちらを振り返ったので私もジャックを見上げる。そこには少しだけ不機嫌そうな顔をしているジャックがいた。


「……ねぇ、」
「なっなに…?」


 いつもの声より少しだけ低い声になるジャックに思わず身体が跳ねる。


「……あぁぁー!」
「!?」


 ジャックは突然叫び頭を抱えた。私は吃驚してそれを見守っているとジャックは顔をあげて私をちらりと見るとまた頭を抱えた。一体どうしたというのだろうか。


「ジャック…?どうかしたの?」
「うぅ…メイのバカ…」
「………」


 頭を抱えたまま今度はアホと小さく呟く。
 私は呆れて溜め息をつきジャックに何が言いたいの、と詰め寄った。するとジャックは顔を引きつらせて目を泳がせる。


「な、なんでもないよぉあははー」
「嘘つくなっ!私に言いたいことあるんでしょ?」
「いやいやいや!ま、まぁあるにはあるけど別に気にすることじゃないよぉ」
「矛盾してるっつの!」


 私はジリジリとジャックに近付く。さっきまで掴まれていた腕はいつの間にか解かれていて身体は身軽になっていた。ジャックに詰め寄ると圧倒されてるのか少しずつ後退り両手をお手上げポーズにするジャック。


「そ、そんなに近付くと抱きしめちゃうよぉ?」
「やってみなさいよ。こっちはサンダー唱え終わってんだから」
「あは…準備良いなぁ」


 苦笑いを浮かべるジャックに私はとうとう壁まで追い詰める。ジャックは観念したかのように溜め息をつき、私を真っ直ぐ見つめるとぼそっと呟いた。


「…嫉妬」
「え?」
「っ、エースに嫉妬したの!」


 言いたくなかったのにぃ!と言い両手で顔を覆うジャックに私は呆然とした。
 嫉妬?ジャックがエースに?


「ナギには嫉妬しないの?」
「先にそっち突っ込むんだ!?………あの人はメイと幼馴染みだからねぇ、確かに嫉妬はするけど…」
「するけど?」
「…0組でさぁ僕だけだったじゃん。メイと仲良くなったの」
「あぁ…そういえばそうだね」
「何て言うか…ナギのメイに対する気持ちは僕もわかるからまぁ一歩譲って目を瞑るけど」


 百歩譲って、だった気がする。


「0組では僕以外と……あんまり仲良くして欲しくないなぁ…なんて」
「…………」


 ジャックの言い分に呆れてしまい私は片手で頭を抑える。ジャックはジャックでだから言いたくなかったのに、と悲しそうに呟いた。
 小さい頃から親しみがあるといってもこういうときは自分を優先してもらいたいという気持ちがあるのだろうか。なんだかお母さんになったような気持ちになった。そりゃ言いたくないよね。


「ジャック、」


 私が名前を呼ぶとビクッと身体を強張らせるジャックに私は気にせず続ける。


「ジャックのそのお願いは聞けない」
「……うん。そうだよねぇ、僕ってば何言ってるんだろ」
「…でも、」
「大丈夫、もう僕我が儘言わないからさぁ」
「……私で良かったらいつでも…あ、甘えてもいい、から」
「え、」


 ジャックだけを贔屓するわけにはいかないけれど、甘えるくらいならいつでも付き合える。それに何よりジャックのことが心配で仕方ない。誰でもいいからジャックの弱音を吐き出させてあげられる人が一人でもいればいいんだけど、今私以外にそういう人がいるかどうかさえわからない。
 そんな人が現れるまで私がジャックの力になる。いや、私がジャックの力になりたいのだ。