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 トキトさんが去ってから私は新しい紅茶とオムライスをマスターに頼む。メニューの書いてある貼り紙をぼーっと見つめていると隣から聞いたことのある声がした。反射的に顔を向けるとそこにはエースがいた。


「ここ良いか?」
「あ、どうぞどうぞ。ここで良ければ」


 そう言うとエースは微笑んでお礼を言う。最近は本当に0組との関わりが多い気がする。


「どうしたんだ?浮かない顔して」
「えっ、そう見える?」
「ああ」


 思わず両手で顔を抑える。するとエースは私を見て鼻で笑った。え、鼻で笑った?


「あ、すまない、ただメイにもそういう顔をすることもあるんだな」
「そ、そりゃまぁ…」
「何か悩みごとか?」
「や、悩みごとってほどじゃないよ。ありがとう、エース」


 マスターが静かにテーブルに紅茶とサンドイッチを置くと私はマスターを見た。どうやら私たちの邪魔をしないように気を利かせてくれたらしい。
 私はマスターに会釈をしてカップを手に取った瞬間、背後に異様な気配を感じたのでカップを持っていない腕を後ろに向かって振りきった。


「ぶはぁっ!!」
「ジャック!?」
「…えっ!」


 慌ててカップを置き後ろを振り返ると床にうずくまっているジャックが目に入った。私は慌ててジャックへと駆け寄る。


「ごめん、ジャック!だ、大丈夫…?」
「うぅ…だ、駄目かもぉ…」
「えぇ…!け、ケアル…!」


 ジャックに向かってケアルを唱えようとしたらジャックに腕を掴まれた。何か言おうとしていたので自分の耳をジャックの口に近付けて聞き取ろうとしたら掴まれている腕を思いっきり引っ張られ、気が付いたら頬に何かが当たった。


「メイのほっぺ頂いたりぃ!」
「…………」
「……はぁ」


 一瞬何が起こったかわからなかった。ジャックに目をやるとジャックは満足気に笑っていて、エースを見上げると腰に手をあて呆れた顔でこちらを見ていた。


「…………」
「メイ?おーい、大丈ぶっ!」


 私の顔を覗き込もうとしたジャックの顔を両手で自分の顔が見えないように抑える。きっと今私の顔は赤くなっているに違いない。こんな顔、恥ずかしくてジャックになんて見せられるか。


「メイ、大丈夫か?」
「…!だだ、大丈夫!」
「ちょっとぉ久し振りなんだから顔見せてよメイー!」
「っの変態!」
「えー?それよりも顔見せ」
「い、いいま変な顔してるから見るなぁぁあ!」


 ジャックは私の手を退けてまで顔を見てこようとしてきたのでエースに助けを求める。エースはわかったと言うように頷き、ジャックの頭を思いっきり叩いた。


「いったぁ!何すんのさエース!」
「いい加減にしないかジャック。メイが困ってるだろ」


 ジャックが叩かれた頭を抑えながらエースに抗議してる今のうちに、ジャックから離れて顔を見られないように深呼吸をする。マスターが空気を読んで水を差し出してくれたのでそれを受け取り一気に水を飲んだ。流石マスター、本当色んなことに気が利くなあ。


「っはあー…ありがとう、マスター」
「どういたしまして。メイちゃんも大変だねぇ」


 だんだんと落ち着きを取り戻した私はジャックに向き直った。若干ドキドキするのは、さっきこいつに頬にキスをされたからだと思いたい。