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「あっ、メイちゃんじゃないか」
リフレッシュルームでマスターから紅茶をもらい一人を満喫していたらトキトさんが話し掛けてきた。 トキトさんとは私が朱雀兵として身分を隠しているときによくお世話になっている人だ。思えばレコンキスタ作戦の時もトキトさんにはよく助けてもらったっけ。 私は飲みかけのカップを置いてトキトさんのほうに顔を向けた。
「こんにちは、トキトさん」 「この間の任務、お疲れ様」 「トキトさんもお疲れ様でした」
私は任務中に会うことはなかったけれどトキトさんもトゴレス要塞奪還作戦に参加していた。朱雀兵として当然だろう。 トキトさんは私の隣に座ると溜め息をつく。どうしたんですか、と問いかければトキトさんは寂しそうな顔をして口を開いた。
「いや…トゴレスに出撃した沢山の仲間の顔も名前も忘れちゃってさ」 「…………」
顔を俯かせて両手を握り締めるトキトさんに私は見守るしかなかった。 戦争中に亡くなった人がわかるのは戦死者リストというのが貼り出されて初めてわかる。その戦死者リストで自分と同じ隊に所属していた名前を見て改めて知ることができるのだ。
「…メイちゃんは忘れたくない人っている?」 「忘れたくない人…?」
突然トキトさんに言われ咄嗟に頭に浮かんだのは何故かあの人の顔だった。私はそれに気付くと顔を左右に振る。トキトさんはそんな私を見てクスリと笑った。
「いるんだね」 「うっ……は、はい…」 「…俺もいるんだ」 「え…」 「メイちゃんはエミナさんって知ってる?」
トキトさんのいうエミナさんとは候補生専属の指揮隊長で容姿もとても綺麗で性格も明るいので男女共に人気が高い、ということをナギから聞いたことがある。
「知ってます」 「…俺、エミナさんのこと忘れたくないんだ。今の自分の人生からあの人が抜け落ちるって、どんな感じなんだろう?想像できないよ」 「…確かに…想像できないですね」
今の私の人生からナギやジャック、他の候補生や0組の皆が抜け落ちたら私はどうなるんだろう。 小さい頃から居てくれたナギがいなくなるなんて想像もしたくない。今まで関わってきた人たちが頭の中から抜け落ちるなんて、とても恐く感じた。トゴレス要塞で亡くなったコハルのことも、何故か名前は覚えているのに私と今までどんな話をしていたとか内容は霞んでしまっていて思い出せない。そもそも何故あの時死んでしまったコハルの名前だけを私は覚えているのだろうか。
「……なんかごめんね」 「えっ」 「メイちゃんすごい難しい顔してるからさ」 「こ、これは、その…ち、違うんです」 「そう?あ、今言ったこと誰にも言わないでくれないかな。もちろんエミナさんにも」 「言わないですよ、大丈夫です」 「…メイちゃん聞いてくれてありがとう。じゃあまた」
そう言うとトキトさんは魔法陣へと消えて行った。私はすっかり冷めてしまった紅茶を見て溜め息をついたのだった。
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