34.5





 トゴレス要塞奪還作戦で0組は見事任務を成功させ周りの候補生からも一目置かれていた。そんな中ジャックは闘技場で刀を振っていた。


「っ…はぁ…」


 ジャックのマントに汗が垂れる。候補生になってから鍛錬をあまりしないジャックが自ら闘技場へ赴き刀を振っている姿は異様だった。
 ジャックはトゴレス要塞でカトルを倒した後すぐにメイが居るであろう場所へ向かった。なのにそこには誰も居らず直ぐ様無線で撤退命令が下った。ジャックはメイを探そうとしたが0組の皆に説得されトゴレス要塞を出て魔導院へと戻った。そしてメイを探していたところでナギに遭遇してしまい、メイが任務を受け続け倒れたとのことを聞いた。それを聞いたジャックは無償に腹が立った。ナギにではない、自分に腹が立ったのだ。
 ナギの話を聞いて0組の教室に帰ったはいいものの、苛立ちは治まらず闘技場へと出向きこうして刀を振るい解消している。


「……あー!疲れたぁ…」


 一通り倒し終わり闘技場の真ん中で大の字になって寝転がる。太陽がじりじりとジャックを照らしていた。
 ジャックは腕を頭に持っていき自分の目に日陰を作る。


「作戦から帰ってきたばかりなんだから、あまり無茶しないほうがいいわ」
「……マザー」


 ジャックが声のした方向へと顔を向けるとドクター・アレシアが煙管を持ってこちらへ一歩一歩ゆっくり近付いてくる。ジャックは上半身を起こし刀をしまった。


「珍しいわね、あなたがこんなところにいるなんて」
「…へへ、たまにはと思ってねぇ」


 額の汗を袖で拭いアレシアに向け笑みを作った。その笑みはいつもの作っている笑みではなく本当に純粋な笑みだった。
 アレシアは煙管を吸いゆっくりと吐いた。


「…あなたをそうさせているのは誰かしら?」
「えっ……」


 少しだけ困惑の色を見せたジャックだったが、すぐに笑みを作りあくまでも自分の意思だとアレシアに言った。アレシアはジャックのその言葉に目を細め、目の前にいる子どもを見据える。そして溜め息をついた後ジャックの頭を撫で身体のかすり傷を癒した。


「あまり無理しちゃダメよ」
「うん。ありがとう、マザー」


 ジャックは気が済んだのか立ち上がり、アレシアにお礼を言うと闘技場から走って出ていった。
 アレシアはジャックの背中を見届けると空を見上げた。


「……不思議な感覚ね」


 そう呟くとアレシアは闘技場の真ん中から消えたのだった。