33





「ふあ…」


 廊下を歩いていると欠伸が出る。昨日はムツキの約束を果たした後もずっとムツキに付きっぱなしだった。それもあって寝る時間が遅くなってしまい今日は少しだけ睡眠不足。任務中のときは気が張っているから欠伸なんて出てこないけど、魔導院内にいるとどうも気が緩くなってしまう。
 まぁたまにはこれくらいいいよね、と自分に言い聞かせた。

 今日は軍令部長から呼び出しをされていた。あのハゲ本当にめんどくさいったらない。司令部の扉を開けると軍令部長が仁王立ちをして待っていた。


「お呼びでしょうか」
「ああ、待っていたよ」
「…任務ですか?」


 そう問うと軍令部長は顎に手を当てにやりと笑う。これはろくなことではないなと瞬時に確信した。


「あぁ、キミにはこれからも0組の監視をしてもらいたい」


 やっぱりね。そんなことだろうと思った。
 私は黙っていると軍令部長はさらに続けた。


「最近、キミに0組の奴が引っ付いているようじゃないか。ちょうどいい機会だ、そいつを利用して0組の情報を入手してもらいたいのだ」
「…………」


 私に引っ付いている0組の奴と言ったらジャックしかいない。私がジャックを利用して情報を入手しろと軍令部長様は言ってるのか。馬鹿馬鹿しい。

 私は沸々と怒りが込み上げてきた。


「…わかったかね?」
「……わかりました」


 私がそう言うと軍令部長は満足そうな顔をして司令部から出て行った。ここで私が怒ったところであのハゲの気が治まるわけではないし反論するだけ無駄だろう。反論したらしたで、私以外の違う人間に0組を監視させるに違いない。だったら私が0組を監視してるように見せかければいいのではないか。
 決してジャックを守るためでもないし0組を守るためでもない。ただ私のプライドが許さないだけだ。

 辿り着いた結論に私は心を決め司令部を後にしたのだった。



 司令部を出た私は0組の教室前で立ち往生していた。レムさんを連れてくるというエンラの頼み事を叶えるためだ。レムさんがどこにいるかわからないのでとりあえず教室前に来たもののやっぱり少しだけ抵抗がある。


「………よし」


 レムさんがいなかったら教室にいる人に聞けばいいか、と開き直り私は教室の扉を開いた。


「…あの」
「あ?」


 セブンと同じような髪色をした人が眉間に皺を寄せこちらを振り返った。確かこの人はサイス、さんだったような気がする。女の子の中でも結構男勝りで口調も悪かったような、というか今の返事ですぐにわかった。


「!あんたこの間の作戦の…」
「あ、その節はどうもお世話になりました」
「…こんなとこになんの用だよ」
「あーっと…レムさんどこにいるかわかります?」


 サイスさんにそう聞くとさっきよりも深く眉間に皺を寄せた。そしてすぐにそっぽを向いて知らないねと冷たく言い放った。ここに居ても仕方ないのでサイスさんにお礼を言って0組の教室を出ていこうとしたら、おい、とサイスさんに呼び止められた。


「はい」
「…あんた、ジャックの何なんだ?」
「は?」


 サイスさんは腕を組んでこちらを睨み付けている。ジャックの何なんだと言われましても。


「………友達、ですかね」
「…ジャックに何か怪しいことしたら、いくら同じ候補生でもぶっ飛ば」
「あー!」


 突然誰かが叫んでサイスさんの言葉を遮った。2人して声のしたほうに顔を向けるとケイトさんとシンクさんがいた。なんか最近0組メンバーと関わるの本当に多い気がするんですけど。