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 クイーンさんときちんと挨拶ができた私は、次に司令部へと来ていた。この間のトゴレス要塞のときの報告書を提出するためだ。
 報告書を朱雀武官に提出し司令部を出ようとしたら入り口でトレイとぶつかりそうになった。私に気付いたトレイは爽やかな笑顔でこんにちは、と挨拶をするので私もそれなりの愛想笑いで挨拶をする。


「トゴレス要塞のときはありがとうございました」
「え、いやいや私は何にもしてないですよ」
「それにジャックがまたお世話になってしまい…本当に申し訳ありません」
「いえいえ、もう慣れました」


 あれだけしつこくされれば誰だって慣れる気がする。あ、そういえばトレイが0組の人たちに私のことを説明してくれたんだっけ。さっきクイーンさんからも聞いたもんな。お礼を言うのは私のほうかもしれない。


「トレイも、私のこと説明してくれてありがとうございます」
「いえいえ、それくらいどうということはないですよ。あぁあとメイのほうが歳上なんですから敬語はやめてください」
「え、トレイ私よりも年下…なの?」
「えぇ…え?それはどういう…」
「あ!いやいや!こっちの話だから気にしないで!うん、わかった敬語やめるね」


 私より年下だったのか。全く見えなかった。いや、良い意味で大人っぽいんだよねトレイ。落ち着いた雰囲気醸し出してるし、うん。
 私は自分の中でそう納得させる。トレイはと言うと私の言ったことを少し気にしている様子だったが、何かを思い出したのかそういえばと切り出した。


「トゴレスは跡形もなく消え去ったという話、聞きました?」
「え、あー…何となく耳にしたかも」
「そうですか…。甲型ルシの力は圧倒的です。って、ルシのこと理解されています?」
「…そりゃ、まぁ…」


 突然トレイの顔つきが変わったのを私は見逃さなかった。なんかめんどくさくなりそうだなと直感的に感じた私はそそくさとそれじゃこれで、と司令部を後にしようとするがトレイが目の前を遮ってしまい入り口はすぐそこなのに逃げられなくなってしまった。


「待ってください、まだお時間大丈夫でしょうか?」
「は、はぁ…」
「少しお話させてもらえませんか?」
「ど、どうぞ」


 断るタイミングを完全に見失ってしまったため仕方なくトレイの話を聞くことにした。


「コホン、そもそもルシとはクリスタルより使命を与えられた者のことです。使命を果たせばクリスタルとなり、クリスタルの意志に反せばシガイという怪物になってしまいます」


 トレイの話は私も資料で見たことがある。クリスタリウムの資料には全部とは言わないが結構目を通しているほうだ。


「ルシには永遠の時が与えられます。他者に殺されない限り、ルシが死ぬことはありません。それはひとえにクリスタルの使命を果たすための力です。ルシに与えられる強大な力の全ては、クリスタルの使命を遂行するためのものなのです。そう、ルシについて興味深い点がもう一つあります」


 いい加減飽きてきた私はトレイに気付かれないように肩を落とす。さて、この状況をどうしたものか…。


「クリスタルやシガイになったルシの記憶は、永遠に人々の心に刻まれ続けるのです。そもそも死者の記憶を失うのは残された者を悲しませないためと言われていますからね。孤独が永い時を生きるルシがクリスタルやシガイになったところでそれを悲しむ者がいないからなのでしょう」


 まだ続くのだろうか。もはや諦めかけたその時、私の元に無線が送られてきた。私はトレイに無線がきたと言えば空気を読んで口を閉じてくれた。無線を繋ぐと聞き慣れた声がした。


──メイ!


「…ムツキ?」


──研究所にきっわあああっ!


「!?」


 そこでブツッと切れてしまった。トレイも聞こえていたのか、今のはなんです?と聞いてきた。


「私の友達なんだけど…ごめん、研究所に行ってくるね」
「そうなんですか。わかりました、お話を聞いてくださりありがとうございました」
「いえこちらこそ…じゃあまたね」


 タメになったかと言えば微妙なところだが、それでも話してくれたのだからトレイに一言お礼を言って司令部を出た。