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 チョコボ牧場に行った後、私はナギと別れクリスタリウムへ来ていた。クリスタリウムに入り本棚を眺めていると、背の高い人物が私の隣に並んだ。


「今日は何を読むのかね?」
「…あなたに関係ないでしょ」
「私はキミが何の本を読むのか興味があってね」
「………」


 溜め息をひとつつく。

 結構周りではこの人物、クオン・ヨバツの名は知られている。私もそれとなく知っていたが、最近クリスタリウムで本を読もうとするとクオンが必ずといっていいほど、私が持っていく本の題名を盗み見ていた。
 私がそのことに気付いているのを知っているのか、この間初めて話し掛けられたにも関わらず、その本は私も読みましたよと本のネタバレの内容を得意気に話された。これから読もうと思っていた矢先に、一応初対面だというのにまさかネタバレを得意気に話されてしまうとは思いもしなかった私は呆然としたのを思い出す。それを気に何故か知り合いになってしまった。
 あの時のこと、私がまだ根に持っていることをこいつは多分知らないだろう。


「クオンってまさか…ストーカー…?」
「!失礼なっ!私はただ…」
「すげぇ本の数だなオイ」


 クオンが何かを言いかけたとき、大きな声がクリスタリウムに響く。私はその声に聞き覚えがあった。というかあの人の話し方や声は特徴があるから一度聞いたら忘れないような気がする。


「はぁ…全く非常識な候補生がいるものだな。そしてメイのその反応、今の候補生と知り合いなのだろう?」
「えっ」
「注意しに行かなくてはな…。キミもそう思うだろう?」
「いや私関係な」
「思 う だ ろ う ?」
「……そ、ですね…」


 なんだろう、私この人苦手かもしれない。少しというか全く気乗りしないが一応クオンの後ろを着いていく。この人のオーラはなんというか0組に似た特別な何かを感じる。なんというか個性が0組並に強い。


「死ぬまでかかっても読み切れねぇだろコラァ」
「さくさく読むんで長生きすれば可能です」


 確かあの子はクイーンさんだったかな。私のこと覚えているだろうか。ナインは相変わらずといった感じだ。


「クリスタリウムでは静かにしたまえ!まったく候補生たる者が恥を知れ」


 クオンが勢い良く2人に噛みついた。
 ナインはクオンのその口振りにカチンときたのか、眉を寄せてクオンへガンを飛ばす。
 私はこの光景を他人の振りをしながら見守るがクイーンさんと目が合ってしまった。クイーンさんは私を見ると少し驚いた表情をした。


「あなたは…」
「オイコラそこまで言うことねぇだろーがアァン?」
「教養のない人間とは話したくない」
「だと?てめぇオイ!やんのかぁ?オイコラァオイ!!」


 とうとうナインがキレクオンに掴みかかりそうになったのでクイーンさんは慌てて止めに入る。私も流石に危ないと思いクオンの服の裾を引っ張った。


「やめなさいナイン!」
「クオンもいい加減やめなよ」
「…仕方がないですね」
「あ、お前…!」


 ナインは私に気付くと指を指してきた。私に指を指すナインにクオンがまた余計な事を口にした。


「女性に指を指すとは…教養のない人間はこれだから…」
「んだとっ!」
「ナイン!」


 本日二度目のクイーンさんの制止の声により、ぐっと抑えるナイン。そして落ち着こうと息を吸ってゆっくり吐いたナインはいきなり鼻で笑った。


「ふふん、俺に教養がないだって?自慢じゃねーが俺はな……」


 余裕の笑みを浮かべるナインに私たちはナインを見つめる。しかし私たちはナインから出る次の言葉に唖然とさせられた。


「オリエンス4大国全部言えるぜコラァ!!」
「「………」」
「っナイン、残念ながらそれは教養ではなく常識に分類されます」


 どや顔で言うナインにクイーンさんが冷静に突っ込む。クオンは呆れ顔で溜め息をついた。ナイン、面白いなぁ。


「私はこれで失礼させてもらうよ。その……うつると困るからね。あぁ、またいい本を見付けたら紹介するよ、メイ」
「…ネタバレは勘弁してね」
「私がネタバレを言うわけがないだろう?それでは楽しみにしていたまえ」


 優雅に去っていくクオンの背中に、この前ネタバレした奴は誰だよ!と心の中で突っ込んだ。クオンって実は天然なのではないだろうか。新たな発見をしてしまった。すごいどうでもいいことなんだけどね。


「大丈夫ですよ、安心してください」


 ナインを励まそうとするクイーンさんに私は耳を傾ける。


「バカは空気感染しないはずですから、わたくしはナインを避けたりしません」


 それフォローになっていないような気もするが、ナインはよくわかっていない様子なので私は口を出さないでおく。ナインは腕を組んでそれ喜んでいいのかと聞くとクイーンさんは小さく頷いた。
 その様子を見守っているとナインが急にこちらを向いて、お前は避けるのかと真面目な顔をして聞いてきたので私も真面目な顔で答えた。


「…感染しないはずだから避けたりしないよ」
「!サンキューなコラァ!」


 クイーンさんの言葉を借りて返すと、やっぱりナインはわかっていなかった。


(そういえばあなたのことをトレイから聞きました。わたくしはクイーンです、ジャックがいつもすみません)
(いえいえ、そんなことないですよ。クイーンさんも御苦労様です)
(全くです。本当に世話の焼ける…)
(誰のこと言ってんだオイ?)
((………))