290.5




 メイとナギを置いて僕は急いでみんなの元に戻る。キングを見つけると、僕は声を上げてキングを呼んだ。


「キングー!お待たせー!あれ、もしかして終わったぁ?」
「…あぁ、ついさっきな」
「そっかぁ。ごめんね、任せちゃって」
「いや、いい。それよりもそっちはもういいのか?」
「ナギに任せといたよー。不本意だけどね」
「そうか…。このことは他の奴には知らせないほうがいい、だろうな」
「うん、そうしてくれると助かるよー。クイーンやトレイなんかに知られれば説教食らうのは目に見えてるしねー」


 僕がそう言えばキングは呆れた表情をして小さく息を吐いた。周りにエースとレムがいないことに気付いて首を傾げる。そんな僕に、察したであろうキングが「あいつらは先に行かせた」と口にした。


「あ、そうなんだ。ありがとーキング。あー、でもあの二人にもバレてるかなぁ」
「その心配はない」
「え?なんで?」
「ナギから『本陣付近に敵がいる、悪いがジャック借りるぜ』と通信をもらったからな」
「…あの人ぬかりないねぇ」
「お前と違ってな」
「うっ…」
「とにかく終わったなら急ぐぞ」
「はーい」


 キングが走り出し、その後を追い掛ける。僕たちが着いた頃にはラーマの町のエナジーウォールも解けていて、そのまま侵入、制圧できた。それほど苦戦を強いられることなく、無事ローシャナ地方の制圧は終わった。
 周りが制圧成功に騒いでいるのを他所に、僕は魔導院に帰る準備をする。チョコボに乗って出発しようとしたとき、キングに声をかけられた。


「ジャック」
「?なーに?」
「俺も行く」
「え?あ、うん、りょーかぁい」


 珍しい、そう思いながら僕はキングがチョコボに乗るのを待つ。チョコボに乗ったのを確認すると、僕はチョコボを走らせた。
 ラーマから魔導院まで距離はそれなりにある。蒼龍との国境を越えてからもずっと、僕の頭の中はメイのことでいっぱいだった。


「おい」
「………」
「おい、ジャック」
「へっ?!な、なに?」
「お前いつメイがここにいるって気が付いたんだ?」


 その問いに僕は「あぁ」と小さく洩らす。


「どこから話せばいいかなぁ。んー…いつっていうか朝から違和感はあったんだよね」
「朝…?」
「うん。あ、キング知らないよね?朝起きたらすぐメイの部屋に行くのが僕の日課なんだけど」
「……そうか」


 キングはそう言ってなんとも言い難い表情をするけど、僕は突っ込まずに続ける。


「そしたらメイの部屋にカルラがいてね。僕より来るのが早いなんてってびっくりしたし、なんでカルラが朝早くにいるんだろーて思ったんだよー」
「…まさかそこで気付いたわけじゃないよな?」
「あはは、メイと同じこと言うねぇ。そんなわけないじゃん。確信したのはヒリュウが現れたときだよー」
「あぁ…そういえばあの時エースに何か言われてたな」
「そうそう。それですぐにナギに連絡したんだけどさ」
「…お前、いつ連絡した?」
「ローシャナ侵攻中のとき?」
「はぁ…だから一番後列にいたのか…」
「あははー、ごめんねぇ」


 そう言って笑う僕をキングは肩を落とすだけで、特に咎めるようなことは口にしなかった。
 あの時僕はヒリュウを追い払った後すぐにCOMMでナギに連絡をとっていた。僕がメイのことを言えば、ナギは溜め息を吐いて「もう気付いたのかよ」と呟いたのをよく覚えている。ナギにメイのところに今すぐ行きたいことを伝えたんだけど、それはダメだとナギに言われた。お前がこっちにこれば待機命令を下されてるはずのメイがいるということが周りにバレるだろ、と。


「それでよく我慢できたな」
「あはー、自分で自分を褒めたいくらいだよー。任務なんか放り投げてメイのところに行きたかったのにさぁ」
「…ナギはその後なんて言ったんだ?」
「うーん、メイのことは俺に任せろーとかなんとか言ってたけど。それで僕の気が収まるわけないじゃん?で、結局任務をダシにメイのところに行って、…ちょっと文句言ってきた」
「文句…?」
「あぁ文句っていってもそんな大したことじゃないから」


 文句というかワガママというか。メイにはちゃんと言わなきゃ伝わらない気がした。だから、ずっと心の中に仕舞い込んでいた気持ちを、ほんの少しだけ曝け出してみた。あの時メイは困惑した表情をしていて、困らせてしまったことを後悔したし虚しくもなった。
 メイはなんで僕ではなくナギを頼ったりするのだろうって。そんなに僕は頼りないのかって。


「ねぇキング」
「?」
「僕ってさー、メイにとって何なんだろうね?」
「……直接本人に聞け。俺にわかるわけないだろ」
「あはは、だよねぇ。……はぁ、僕もメイの幼なじみに生まれたかったなぁ」


 そう口にしながら空を仰ぐ。そんな僕をキングは何も言う事なく、それから魔導院まで口を開く事はなかった。