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セトメ地区の任務が無事成功に終わったと報告を受けて、ホッと胸を撫でおろす。みんな命に関わるような負傷を負うことなく、無事に魔導院に帰投した。私に気付くな否や、ジャックが満面の笑みを浮かべてこちらに向かって走ってくる。 「メイー!ただいまぁー!」 ドドドドドと勢いよく走ってくるジャックに身の危険を感じた私は、咄嗟に近くにいたモーグリを掴んで真っ直ぐ投げる。突然のことにモーグリは反応できなかったのか、そのままジャックの顔に衝突した。 「いたぁ!?」 「クポー!?」 モーグリには悪いことをしてしまったけれど、あのままジャックを受け止められる自信なんてなかった私は、こうするしかなかったのだと自分を納得させる。あとでモーグリのケアをしなくちゃ、そう思いながらトレイに窘められているジャックと、それを見て呆れるみんなのところへ向かった。 ◇ その次の日には早速蒼龍の大規模エリア制圧戦のことが通達された。ローシャナ州にあるラーマの町を制圧すれば、蒼龍へ侵攻するのに色々と便利になる。そのために、何が何でもローシャナ州を制圧しておきたいようだった。 モーグリからの作戦の詳細を聞いたあと、私だけはやっぱりモーグリから待機命令を出されてしまった。それを聞いたケイトが「ねぇモーグリ」と口を開く。 「なにクポ?」 「今回の作戦さー、メイには来てもらったほうがよくない?メイ、ヒリュウ操れるし」 「そうは言っても上からの命令なんだクポ。ボクがどうにかできる問題じゃないクポ」 「ていうかなんでメイだけ待機命令出てんだよ?同じ組なのにおかしくねぇか?」 サイスさんが不機嫌そうな声でモーグリに問いかける。しかしモーグリは頭を垂れてふるふると頭を振った。 つい先日モーグリが言っていたように、モーグリも待機命令の理由については聞かされていないのだ。項垂れるのも仕方ない。もし、待機命令の理由に、ジャックのことが含まれているとみんなに知れたら、一体どうなるんだろう。みんなのことだから案外普通なのかもしれないけど、あまり考えたくはなかった。 「上の奴らなに考えてんのかね。メイがいたらヒリュウなんて……あー!!」 「!?ど、どしたの?」 いきなり大声を上げるケイトに、みんなが注目する。どうしたのかとケイトを見つめていると、突然ケイトは私の肩を掴んでガクガクと揺さぶってきた。 「ちょっと!まだちゃんと説明もらってないんだけど!」 「ちょ、ケイト落ち着いて…説明って何が?」 「ヒリュウのことよ!」 ケイトの言葉に他のみんなもハッとしてこちらを見やる。そういえばあの日、帰ったら説明すると言ってたっけ。すっかり忘れてた、と零せばケイトは私を指差して詰め寄ってきた。 「さぁ、今日こそはきっちり説明してもらうからね」 「実はわたくしもずっと気になってました。差し支えなければ話してくれませんか?」 「え、えーと…」 説明、と言われてもあのことを話すわけにはいかない。だからといってはぐらかしても、余計詰め寄られるだろうし、どうしたものか。 みんなの目が私に突き刺さる。どこから話そうか悩んでいると、不意にナギが声をあげた。 「メイさ、昔っから何故か魔物にだけは好かれてたよなぁ」 「えっ」 「あれ、お前覚えてない?候補生になってすぐに俺と洞窟行っただろ」 「あ、あー…確かにそんなことあったね」 あれは確か、候補生になってすぐのことだ。洞窟の中にいるという夜盗の始末の任務がくだり、ナギと始末しに行ったのを覚えてる。でもそれがなんで魔物に好かれていたという話になるんだろうか。 首を傾げてナギを見やれば、ナギは呆れたように息を吐いた。 「あの時洞窟の魔物と交戦してなかったんだぜ?」 「…そうだっけ」 「そ。一応あの洞窟にも魔物はいたのに、なぜかその時だけ現れなかった。メイと手分けして夜盗を探してたとき、俺のとこには魔物現れたんだけどさ、私のとこには現れてないって言ってたじゃん。メイはただ魔物に好かれてるだけなんじゃねぇの。んで、今回は魔物に助けを求めて魔物が助けてくれた、ってだけだろ」 「…では他の魔物についてはそういうことにしておきましょう。しかし、何故竜語も話せないのにヒリュウと共に居たんです?ヒリュウはそう簡単に手を差し伸べてくれるとは思えないのですが」 「それは…」 クイーンの尤もな意見に口ごもる。ヒリュウは蒼龍の中でも気高く、それを操るのも難しいと書物には書かれていた。クイーンもそういう本を読んだのだろう。 そんなヒリュウが簡単に私の元へくるなんて、おかしな話だ。疑問に思うのも仕方ない。 「…ヒリュウのことは私にも未だにわからないの」 「わからない?」 「どうしてヒリュウが私を助けるのか。なんで私の言うことを聞くのか。ヒリュウと話せたらわかるかもしれないけど、ヒリュウとなんて話せないから…」 私の言葉にクイーンは納得いかないのか口を開けるが、何も言わずに口を閉じる。ケイトも納得いかないというような顔をしていたが、それ以上言うことはなかった。 「ごめんね、何もわからなくて」 「…いや、メイが気にすることない。わからないものは仕方ないさ」 そう言ってセブンが肩に手を置く。彼女が気を使ってくれてるのがわかって、私は顔を俯かせた。今の私には結局こう言うしかない。それがみんなから逃げているようで、少し後ろめたかった。
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