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 今日はナギと一緒にチョコボ牧場へ来ていた。相変わらず私の回りをウロウロするヒヨチョコボに苦笑いを浮かべ一番奥の小屋へと足を運ぶ。


「そういえば、トゴレスの戦いにあのカトル・バシュタールが出てたらしいぜ」
「ふーん」
「ま、あれだけ大きい戦いなら当然だよな。そのカトルって奴、0組と戦った魔導アーマーパイロットなんだとよ」
「あぁ、魔導アーマーなら私も一目見たよ」


 ちょうどすれ違いになったんだけどね。そう言うとナギはお前運がいいなと言ってきた。確かに私は運がよかったかもしれない。もしあの魔導アーマーに見つかっていたらきっとここにはいないだろう。


「…あれ」
「ん?」


 小屋へと向かっていたら見たことある人物がチョコボを眺めていた。心ここに在らずというような表情でチョコボを見つめていた。


「…マキナじゃねぇか」
「あ、ナギ…とメイさん?」
「この間はどうも、マキナくん」
「…どうも、メイさんもこの間はお疲れ、トレイから聞いたよ。あと呼び捨てで構わないから」
「あ、じゃあ私のことも呼び捨てでいいよ」
「ああ、わかった」
「マキナはどうしてここにいるんだ?」


 ナギがマキナに問い掛ける。マキナはチョコボに目を移し微笑みながら答えた。


「少しチョコボを見に来たんだ。…チョコボってかわいいよな。俺が名前付けるとしたらチチリ、なんて…」


 そこでマキナは止まる。ナギと私は首を傾げマキナに再度話し掛けるとマキナはビクッと反応した。そして何故か微妙そうな面持ちで私たちに顔を向ける。


「最近寂しいような、懐かしいようなそんな違和感を感じるんだよな…どう説明したらいいかわかんないけどさ…」


 俺、変かなと私たちへ投げ掛けるマキナの顔はひどく悲しそうな表情だった。
 私はマキナのその違和感が少しだけわかる気がする。親が両方ともいない私もたまにマキナと同じような違和感に襲われることがあるからだ。それは本当に些細な事だけど寂しいような、懐かしいようなそんな気持ちになることがある。


「と、ごめんな。何言ってるんだろうな俺…聞いてくれてありがとう。それじゃあな」
「あ、…」
「…あいつ、なんかあったんだろうな」
「…そだね、」


 マキナが行った後、私たちは少しだけしんみりとした空気になった。きっとマキナと親しかった人がいたんだろう。そうじゃなければあの違和感を感じないわけがないから。


「お、ナギとメイちゃん!2人して今日はどうしたんだ?」


 ヒショウさんの明るい声によってしんみりしていた空気が一気に明るくなる。私たちの顔を交互に見やるヒショウさんがあれ、もしかしてまずかった?みたいな表情をしたので、私とナギは顔を見合わせ笑い出した。


「えっなんで笑うの!?」

「あはは何でもないよ」
「はは、何でもねぇよ」

「2人してなんだよそれ…」


 肩をがっくり落としたヒショウさんを励ましつつ、奥の小屋へと向かった。小屋の前に着くとチョコボは小屋から出そうな勢いでこちらに来て、元気な鳴き声で私たちを出迎えてくれた。私はチョコボの首を撫でると気持ち良さそうに目を細める。


「…この間はありがとね」
「クエ」
「…本当メイの前では大人しいんだなお前」
「聞いてくれよナギ、こいつな未だに俺が餌あげても俺がいなくなるまで食べようともしないんだよな…」


 悲しそうなヒショウさんにナギがどんまいと励ます。私は苦笑しながらギサールの野菜を口元に持っていくとチョコボはそれをおいしそうに食べ始めるのだった。