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 ジャック達が任務に行ったあと、することがなくなってしまった私は、どうしようかと考えているとナギが私の名前を呼んだ。


「?なに?」
「暇ならさー、次の作戦のこと聞く?」
「次の作戦?」
「そ。ほぼ決まってる作戦」


 そう言ってナギはにやりと笑う。諜報部の中でそれなりに活躍しているナギには、皆よりも早く次の作戦を伝えられているらしい。そんな大事なこと話していいのかと溜め息を吐くと、ナギは「まぁお前になら伝えても大丈夫だろ」とあっけらかんと言ってのけた。その自信はどこから湧いてくるのか。


「お前も聞きたいだろ?」
「うっ…そりゃあまぁ、決まってる作戦なら、ね」
「本作戦じゃねぇからまたメイは待機かもな」
「……やっぱり?」
「あぁ、…あーまぁ、ドラゴンとか出てこられると厄介かもな…」
「てことは次の作戦の相手は蒼龍なんだね」
「そう。大規模なエリア制圧戦だ」


 エリア制圧戦なら他の候補生も出撃するだろう。そんな時に限ってまた待機だなんて、いくらなんでも我慢できない。
 それを感じ取ったのか、ナギは頭をかいて苦笑を浮かべた。


「行きたいんだろ?」
「…うん」
「んー…あー…よし。俺が何とかしてやるよ」
「え?何とかできるの?」
「俺を誰だと思ってんだよ。皆のアイドル、ナギ様だぜ?」
「…はいはい」


 皆のアイドル、は関係ないと思う。そう言いたかったが、なんかめんどくさくなるような気がして流すことにした。
 不意にナギが懐から1枚の紙を取り出す。そして、それを私に差し出した。


「…【ドラゴンスレイヤー】作戦?」
「あぁ、ローシャナ州へ侵攻することになった」
「ローシャナ州…」


 一ヶ月半前にローシャナ撤退戦のときに侵入したことを思い出す。
 あのとき、私は青龍人に襲われそうになったジャックを庇って首を噛まれた。そのあと意識を失ったまま月日がたってて…。
 私は思わず噛まれたところに手を当てる。思い出したら傷口が疼いてきた。あの感触はもう二度と味わいたくない。


「メイ?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとね」
「傷口痛むのか?」
「んー、傷まないけど思い出したら無意識に…」
「そう、か」


 ナギはそう言って眉尻を下げる。その顔を見て申し訳なくなりつつも、話題を逸らすために「あ、あのさ!」と切り出した。


「ん?」
「何とかしてやるっていうけど、どうするつもりなの?」
「そうだな、モンスター討伐隊に紛れるっつーのは?」
「モンスター討伐隊…」
「ヒリュウに乗る奴らもいるだろ?あとモンスターを操る奴とか。まぁ朱雀軍からしてみればモンスターの討伐なんだろうが、メイの場合はモンスターっつーよりモンスターを操る奴の討伐だな」
「あーそういうことね」


 確かに、モンスターを討伐するよりもモンスターを操る蒼龍兵を倒したほうが私には合っているだろう。白虎のクァールといい、蒼龍のモンスターといい、あの影響によるものなのには違いない。それがいいのか悪いのか、私には判断し兼ねるけれど、今の自分にとってはそれがありがたかった。
 みんなが戦っているのに、私だけ何もしないなんて耐えられないから。


「紛れること自体は簡単だ、変装すればいいだけだし」
「うん…」
「ただメイが魔導院にいることを証明しなきゃいけねぇんだよなぁ。自室に閉じこもってる、つーのは無理があるし…」
「まさかナギも任務なの?」
「おう。メイのこと見張っとけって言う割に、あいつら俺にきちんと任務言い渡してくるんだぜ?ありえねぇだろ」


 はぁ、と肩を落とすナギに、どう声をかけていいかわからず、とりあえず「頑張ってね」と慰める。ナギは小さく「おう」と返事をして、それから腕を組んだ。魔導院にいることをどう証明すればいいのか考えているようで、難しい顔をして唸っている。
 ナギの言う通り部屋に閉じこもってるだけじゃ無理がある。それに、誰かが確認しに来るかもしれない。そう考えると、魔導院から外に出るのは容易ではないだろう。


「…仕方ないな」
「え?」
「高くつくかもしれねぇけどさ。メイも協力しろよ?」
「それってどういう…」


 にやりと笑みを浮かべるナギに、私は嫌な予感がしてならなかった。







 ナギに連れられ、サロンに辿り着いた私はナギに促されるままソファに座らされる。一体何が行われるのかとナギを見やれば、ナギはニッと笑って私の頭をポンポンと軽く叩いた。


「んな心配しなくても大丈夫だって」
「…嫌な予感するんだけど」
「いやマジで大丈夫。ほら、金が絡むとすごいやつ、お前も知ってるだろ?」
「………」


 金が絡むとすごいやつって言ったらもうカルラしかいない。ていうかカルラ以外に思いつかない。確かに金が絡めばカルラはなんでもやってしまうけど、ナギは一体カルラに何を頼むんだろう。
 そこまで考えて、ハッとなる。まさかカルラに私の変装をさせようと考えているのだろうか。


「ハロー、ナギにメイ!んふふ、私に頼みたいことがあるらしいじゃない」


 カルラはサロンに到着するや否や、上機嫌で声をかけてくる。COMMでナギから頼みたいことがあるとでも言われたのだろう。カルラはニコニコと笑顔を浮かべながらソファに座った。


「困ったことがあるんでしょ?私が何なりと聞いてあげるわ!もちろんタダじゃないからその辺はわかってるわよね?」
「わかってるよ。メイも協力してくれるって話だし。なぁ?」
「…な、内容による…かも」
「あら、そんなこと言ってられないんじゃないかしら」
「そうだぜ。任務に行きたいんだろ?そんなら覚悟決めるしかねぇって」
「………」


 じろりとナギを見れば、ナギは楽しそうに笑っていた。こいつ、絶対面白がってる。私が断らないとわかっているからこそ、そういう顔をするのだ。
 改めてナギは意地悪だと思った。