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闘技場を後にした私たちはそのまま教室に向かう。すると、教室へと続く扉の前でうろうろしているムツキの姿が目に入った。その首元には真新しい朱色のマントが巻かれていて、思わず頬が緩む。不意にジャックが立ち止まり、私に振り返った。 「ねぇ、あの子の首元に朱色のマントが見えるんだけど」 「間違いなく朱色のマントだね」 「まさか…」 「うん、そのまさか」 そう言うとジャックはがくりと項垂れる。そんなあからさまに項垂れなくても、と苦笑していると、ムツキがこちらに気付いたのか、どたどたと音を立てながら私たちに駆け寄ってきた。そのまま私に飛びかかって来る。 「メイー!」 「うわっと、ムツキ、いきなり飛びかかって来ないの」 「メイなら受け止めてくれるじゃん!」 「予想はしてたからね」 にこにこと笑みを浮かべながら私を見上げるムツキに頬が綻ぶ。ムツキの頭を撫でていると、ムツキがジャックに顔を向けた。 「なんでお前がメイといるんだ!」 「そりゃあ朝からデートしてたからね」 「な、デートだと!?メイ、こんな奴と朝からデートしてたのか!?」 「朝の鍛錬してただけだよ。朝からデートなんてするわけないでしょ」 「!、この大嘘つき!ハッ!?まさかその嘘でボクを凹ませようとしてたんだな!?そうだろ!」 「うん、まぁねぇ」 「こら、からかわないの!」 プリプリ怒るムツキを宥めながら、ジャックに注意する。ジャックは心底面白くなさそうな顔をして、プイッとムツキから顔を背けた。不貞腐れるジャックをどうしようか悩んでいると、ムツキが声を掛けてきた。 「なぁ、あそこが0組の教室、なんだよな?」 「ん?うん、そうだよ」 「一緒に行こ?」 「うん、行こうか」 「ちょっと待った!」 「むっ、なんだお前。まだボクをいじめ足りないのか!?」 「いやそうじゃなくて。なんでキミが0組に入ることになったのか聞きたいんだけど」 ジャックの言葉にムツキは気まずそうに顔を俯かせる。それは私も聞きたい。0組から直々に指名された、というのは聞いたけれど、誰から指名されたのかは知らないからだ。 ムツキと関わったことのある人は私の知る限り、キングとセブンしかいない。ジャックはまぁこんなんだから指名するはずがないし、あの二人がムツキを指名したのだろうか。 「うー、あー、そのー…」 「なに勿体ぶってんのさぁ」 「あ、あいつらに頼まれたから…」 「あいつら?あいつらって?」 「ムツキ、それってセブンとキングのこと?」 「ん…そう」 コクンと小さく頷くムツキに、私とジャックは顔を見合わせる。あの二人が何をムツキに頼んだのだろう。思わず首を傾げてしまう。そんな私を他所に、ジャックが何か思い出したのか「あっ」と声を上げた。 「まさか、あの爆破ミッションのこと?」 「爆破ミッション?」 「うん。僕はその任務行かなかったんだけど、キングとセブンが爆発物に詳しい人に心当たりあったらしくてね。それで、その人のお陰で任務は無事に成功したって…いやぁ、まさかキミだったなんてねぇ」 たいしたもんだ、とジャックが言うと、ムツキは照れ臭そうに頬をかく。 そんな任務があったなんて、全く知らなかった。いつの話かわからないけれど、でもムツキがあの二人には心を許せたようで、安心した。これで私がいなくなってもムツキは一人にならないから。 「でも、私そんな任務あったの知らなかったよ」 「んー、まぁメイは鍛錬に忙しいときだったしねぇ。だからメイには伝わんないようにしてたんだよー」 「そうなんだ…うー、なんか疎外感…」 「メイのことだから、全快じゃないしって断ったんだろうけど、あんまり気負わせたくなかったからさ」 そんなことない、と言い切れないけれど、やっぱりちょっとショックだった。そんな私を慰めるかのように、ジャックが頭を撫でる。やめろ、と言うような目線をジャックに向ければ、ジャックはへらりと笑った。その笑みに、肩の力が抜ける。 「メイ…」 「ん?」 「…ううん、何にもない。メイ、教室行こう!」 そう言ってムツキは私の手を取って歩き出した。 ◇ 新しく入った2人に、みんなは歓迎のムードで迎えてくれ、ムツキはそれに戸惑ってるのか挙動不審になっていた。リィドさんは照れ臭そうに頭をかいていたが、少しするとトレイと話し始めていた。そんな中、不意に教室の扉が開く。 「おう、お前ら!はい、通達」 そこに現れたのは一切れの紙を手にしたナギだった。多分、あのことをみんなに伝えるのだろう。いきなり現れたナギに、サイスさんがいち早く動いてその紙を手にした。 「なんだ?なになに……はぁ?!」 そこに書いてある文章を読んだあと、サイスさんは驚愕の声を上げた。その声に続々とナギの元へと皆が集まる。ふとジャックに目を移すと、顔を青くしていた。驚くサイスさんをトレイが不思議そうに問い掛ける。 「どうしたのですか?」 「いやどうしたとこうしたも」 「今日から俺も0組を正式にサポートすることになったんでよろしく!」 その言葉に皆は事態が飲み込めていないのか呆然としていた。そんな皆を他所に、ナギはどや顔で背中を皆に向ける。そこには0組を示す真新しい朱色のマントが背負われていた。 「みてみて、この朱いマント」 「えっ?!」 我に返った数名が声をあげる。その反応にナギは顔を引きつらせた。 「な、なにその反応。う、上からの命令なんだって〜。それも諜報部から。いやさぁ、向こうから0組の中に入って内偵しろって言われてさぁ」 「内偵だって?!」 「そ、そんな……」 聞いてもいないことをペラペラと喋るナギに、エイトとデュースが反応する。デュースは上からの命令とはいえ、内偵されることにショックを受けているようだった。 「というか、そんなことを私たちに話してよいのですか?」 「相手に話した時点で内偵じゃないじゃん……」 トレイとシンクが呆れながらそう言うと、ナギは開き直るように口を開いた。 「あ、いや、命令だから内偵するけどさぁー。俺とお前らの仲じゃんか。隠し事なんてねぇ〜」 「…………」 シーンと静まる皆に、ナギが慌てて弁明を始める。 「あ、いや内偵が決まった時に心配になって立候補したわけじゃないからな!本当だからな!!」 それってつまり心配になったから立候補したのだと言っているようなものだ。まさかナギから暴露してしまうとは、皆の反応がナギの中で予想外だったからだろうか。 変な目線を向けられて居た堪れなくなったのか、ナギはわざとらしく咳払いをする。 「ん、こほん!いやまぁそんな感じだからさ。用があったら頼ってもらっていいからな。んじゃあねぇー、今後ともよろしく!」 そう言ってナギは教室を後にする。ナギが居なくなったあと、皆は苦笑いを浮かべていて、そんな中ジャックはというと、一人席に座って頭を抱えていた。
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