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冷の月11日。夕方の鍛錬をこなした私は部屋へと向かっていた。その途中、感じたことのある気配を感じて名前を呼ぶ。 「ナギ」 「お、よくわかったじゃん」 「あれからもう何日経ってると思ってんの。さすがに感覚取り戻してるよ」 「まぁそりゃそうだよな」 「で、何かあったの?」 こうして気配を消しながら私の前に現れる時は大抵何か用事があるはず。私がそう言うとナギは含み笑いをした。どこか気味が悪いナギに、私は眉を寄せる。 「そんな急かすなよ。とりあえず部屋行こうぜ。そういや今日はあいついねぇの?」 「あー、ジャックなら課題の山に追われてるんじゃないかな」 「課題?」 「今日クイーンが抜き打ちテストやったんだよ。それで、赤点の子たちは課題を課せられたの」 「へぇ、0組ってそんなんやってんのか」 隊長がいないため、自習となっている今はサボろうと思えばサボり放題だ。それをクイーンやトレイはよく思っていなかったらしく、急遽抜き打ちテストが行われた。赤点はもちろん、いつもの三人組である。 部屋に着くと、私はナギを廊下に待たせて部屋着に着替える。ナギを迎え入れたあと、お湯を沸かし始めた。その音にナギの視線がこちらを向く。 「ナギも飲む?」 「おー、よろしく」 「コーヒーでいいね」 「おう、サンキュ」 2つのマグカップにコーヒーの素を入れておいて、私はベッドに腰を掛けた。トンベリがもそもそとベッドに這い上がってきて、膝の上に乗る。 ナギはそんなトンベリを流し目で見ながら鼻で笑った。 「ほんとお前ってモンスターに好かれるよな」 「いいことじゃん」 「それいいことなのか?」 「それよりも何か話あるんでしょ?本題は何?」 「あぁそうだったそうだった。ほら、これ」 「?…任務?」 「ん、まぁ明日のな」 そう言って一枚の紙を私に差し出す。それを受け取って紙に書かれている文章を目で追った。 冷の月12日、白虎との交戦中セトメの町にて重要情報を保持しているとみられる将校が発見された。0組は4名を選出し、セトメに向かい、将校を追跡、確保しなければならない、と書かれていた。 セトメと言えば朱雀と白虎の国境を越えて、すぐの町だ。もうそこまで侵攻しているのかと茫然としていると、お湯の沸く音が耳に入った。一旦、紙を置いてコーヒーを作りに行く。 「お前は行くの?」 「え?」 「この任務」 「あー…どうだろね」 あの中から4人を選ぶなら、完全ではない私はきっと足手纏いにしかならないだろう。そうナギに言うと、ふーん、と気の抜けた声が耳に届く。自分のマグカップとナギのマグカップを手にしたとき、不意にジャックのマグカップが目に入った。 今頃課題にヒィヒィ言ってるんだろうな。ジャックのその姿が容易に想像できて、思わず頬が緩んだ。 ナギにマグカップを渡して私はまたベッドに腰をかける。温かい飲み物に息を吹きかけていると、またナギが一枚の紙を差し出してきた。 「まだあるの?」 「いや、これは任務とは違うやつ」 「任務とは違うやつ?」 マグカップを片手に持ったまま、それを受け取る。任務内容の紙と違って、文字数は少なく、真ん中に太字で文章が書かれていた。 ふーふー、と息を吹きながら、中央の文章に目を通す。 【異動命令】 異動命令?誰の異動命令だろう。そのまま目線を下に向ける。 《5組 リィド・ウルク 9組 ナギ・ミナツチ 12組 ムツキ・チハラノ これら3名を12日以降0組に異動することを命ずる。》 「……は?」 「いやー俺もついに0組の仲間入りだぜ」 「え、いや、え?これ本当に?」 紙に書いてある文章をまじまじと見ながらナギに問い掛ける。ナギは「おう」と返事をしたあと、マグカップに口をつけた。 どうして今更0組に異動になったのだろう。しかもナギだけではなくムツキとリィドさんまで。呆然としている私に、ナギがマグカップを置いてこちらに目線を寄越した。 「リィドとムツキは0組直々に指名されたんだってよ」 「指名?」 「そ。0組からの指名なら上を通さなくても異動できるらしいぜ」 「…ナギはなんで異動になったの?」 「俺は上からの命令。諜報部からな」 「え!?」 「向こうから0組に入って内偵しろって言われたんだよ」 「そう、なんだ」 いや、ちょっと待て。そんなこと私に話しても大丈夫なのか。同じ組だったとはいえ、私は今は0組だ。それなのにそんな大事なこと私に話してもいいのか? そう思ってたらナギはフッと笑って両手を頭の後ろに組んだ。 「ま、お前にもあいつらにも隠し事なんてしたくねぇし、心配だったから立候補してやっただけさ」 「へぇ、心配してくれてるんだ」 「そりゃあな。あ、あいつらにはまだ言うなよ。明日びっくりさせてやるんだからな」 ニッと悪戯っ子のように笑うナギに、私は頬が緩む。ナギが皆に0組に入ることを言ってびっくりする0組の面々が頭に浮かんで、思わず笑ってしまった。
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