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エイトとの鍛錬は厳しいけれど、着々と身体は鍛えられていた。まだ身体は痛いけど、全く動けないほどではなくなっていた。 夕方の鍛錬が終わり、ジャックと別れた私は一人自室に向かう。早くシャワーを浴びたいな、と思いながら部屋までの角を曲がると、廊下の端っこで佇む朱雀兵の姿が目に入った。 見たことがあるその容姿に、私の足は自然と足早になる。 「と、トキトさん?!」 「!あ、メイちゃん」 トキトさんは私を見るなりいつもと変わらない優しい微笑みを浮かべる。トキトさんとはローシャナで会話したとき以来だ。元気そうなその姿にホッと安堵する。 「元気そうで良かったです」 「はは、メイちゃんのお陰だよ。本当にありがとう」 トキトさんはそう言って頭を下げる。私は慌てて「頭上げてください」と言うが、トキトさんは頭を上げることはなかった。そのままトキトさんは続ける。 「ずっとお礼を言いたかったんだ」 「え、いえ、お礼だなんてそんな…」 「本当に感謝してもし足りないくらいだから」 「あの、と、とりあえず頭上げてください、変な目で見られてますから…!」 周りの候補生の好奇の視線が突き刺さる。私の言葉にトキトさんは慌てて頭を上げた。お互いに目が合うとどちらからともなく笑い合う。 「私が勝手に助けただけですよ。でも、お礼を言ってくれて嬉しかったです。ありがとうございます」 「こちらこそ、助けてくれてありがとう。それで、メイちゃんに報告があるんだけど…」 「報告?」 何の報告だろう?そう思いながら首を傾げてトキトさんを見つめる。トキトさんははにかみながら、口を開こうとしたときだった。 「なーにしてんの?」 「わあ!な、ナギ……」 「ナギ!よかった、ナギにも話しておこうと思ってたんだ」 「?何を?」 私の後ろから突然現れたナギにトキトさんは驚きもせず、ナギはきょとんとしながら言う。体が鈍っているせいか、ナギの気配にも気付けないなんてと絶望している私を他所に、トキトさんは口を開いた。 「ちょっと、あの事をね」 「あの事?」 「うーん、ここじゃあちょっと言いづらいなぁ…」 トキトさんは頬をかきながら辺りを見回す。そういえばここは女子寮の廊下だった。私はちらりとナギを見ると、ちょうどナギと目が合う。ナギは苦笑いしながら「じゃあサロンにでも行こうぜ」と口にした。 「いいだろ、メイ」 「私はいいけど…あの、トキトさん、ちょっと着替えてきてもいいですか?」 「あ、うん、もちろん。いきなり押し掛けてきちゃってごめんね」 「いえ、じゃあナギとトキトさんは先に行っててください」 「おう、また後でな」 ナギはそう言うとトキトさんと一緒に女子寮を後にする。二人の姿が見えなくなったあと、私は慌てて部屋に入り、汗でベタつく服を脱いでラフな服を身につけた。 不意にちくちく、と何かに刺されてる感触に目線を下に向けるとトンベリが私を見上げていた。そういえばモーグリにトンベリを送るよう頼んでいたような気がする。少し不機嫌なのか、いつもはしまっている刃物を私に向けていた。 「ご、ごめんごめん、一緒に行こっか」 「………………」 私がそう言うとトンベリは頷いて刃物をしまう。そして私に向けて両手を上げた。抱っこしろ、というわけか。 トンベリの可愛らしい行動に小さく笑いながら私はトンベリを抱き上げる。 近いうちにカヅサさんのところにでも足を運ぶことにしよう。そう思いながら部屋を後にした。 サロンに着いた私はナギとトキトさんを探す。キョロキョロと見回すと、サロンの奥のほうのソファに座っている二人が見えた。 そっちに向かうとナギが私に気付いて手を上げる。 「お、今日はトンベリ付きか」 「まぁ、ね」 「んじゃメイも来たことだし。トキト、話ってなんだ?」 私はナギの隣に腰を掛けてトキトさんを見やる。トキトさんは照れ臭そうに笑いながら、口を開いた。 「実はさ、エミナさんに言ったんだ」 「え、マジで?」 「うん」 言ったってまさか、とナギを見ると、ナギは私の視線に気付いたのか小さく頷く。そういえば、ローシャナ作戦のときトキトさんはエミナさん宛ての手紙を持っていた。そうか、帰って来てからちゃんと告白したんだ。 トキトさんの勇気に感心していると、ナギが「それでどうだったんだ」と口にする。トキトさんは一瞬目を伏せたあと、苦笑いを浮かべた。 「気持ちは嬉しいけどって」 「あー…そっか」 「そうですか…」 「まぁでも言えて良かったよ。これで人生に悔いはないかな」 「おいおい人生に悔いはないって、人生なんかこれからじゃねぇか。なぁ、メイ」 「えっ、う、うん、そうですよ!まだまだこれからですし、トキトさんなら…」 そう言いかけて、言葉が詰まる。人は生きてる限り、未来がある。トキトさんにもナギにも、死なない限り未来があるんだ。 でも私は?私は人のようで人ではない。そんな私に人生なんてものがあるのか?そして、その先に見据える未来は――。 「…メイ?」 「!、と、とにかく、トキトさん!まだまだこれからです!気張っていきましょう!」 「ふふ、メイちゃんったら、気張るって何に気張るのさ?」 「えっ、えーと、あはは…何に気張るんだろう、ね、トンベリ」 「………………」 誤魔化すようにトンベリに話しかけると、トンベリは意味がわからないといった風に首を傾げる。そんな私とトンベリにトキトさんは笑っていた。 ナギが怪訝そうに私を見ていたなんて、今の私には知る由もなかった。
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