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エイトは候補生になってからも毎朝、鍛錬のために闘技場に足を運ぶのが日課になっていた。大切な仲間を守るために、自身を鍛え上げる。それがエイトを日々奮い立たせていた。 今日もその日課を果たすために朝早く目を覚ます。昨日、仲間であるメイと鍛練したのをエイトは思い出して目を細めた。 彼女はつい最近まで生と死の狭間にいた。ローシャナで起きた不慮の事故に、誰もが彼女のことを気にかけていた。その中でも特に彼女を気にかけていた人物がエイトの脳裏を過る。 あいつは今日もいるのだろうか。 「ふ、いるだろうな」 そう呟いてエイトはベッドから下りる。身支度を整えながら、エイトは口元を僅かにあげた。 好きな人が自分以外の異性と二人きりになるのが嫌なのはわかる。わかるが、仲間である自分を少しは信じてほしい。それに、彼女は既にジャックのことを――。 「…だからあいつも離れたくないんだろうけど」 エイトは思わず苦笑いを浮かべる。それはとっくに本人も気付いていた。だからこそ離れがたいのだろう。マザーがいる限り自分達は死にはしないが、彼女はマザーの恩恵を受けられない。故にいつ死んでもおかしくはないのだ。 クリスタルにより、死んだ者との記憶はなくなってしまう。彼女との記憶がなくなるのが、今のジャックには耐えられないのだろう。 「…?」 ふとエイトはスカーフを取ろうとした手を止める。今のジャックとは何か。まるで以前にもこういうことがあったかのような、そんな気がした。 気のせいか、とエイトは小さく息を吐く。朱色のスカーフを手に取り身につけると、エイトは自室を後にした。 エイトは闘技場へと続く扉を開けようと手を掛けたが、人の気配がしてそれを止める。ぐるりと辺りを見回すが、それらしき人はいない。気のせいかと手に力を入れようとしたとき、中から女と男の声が聞こえてきた。 自然と耳を澄ましてしまう。 「いっ…ちょ、ジャック…!」 「あぁごめんね、痛かった?」 「やっ…!はぁ…、ほんと無理、だって…!」 「無理じゃないよー、大丈夫。ほら、力抜いて」 「うー…!」 どうやら女の声はメイで、男の声はジャックらしい。その艶かしい声に、エイトは顔に熱が集まるのを感じた。中で何が行われているのかはわからない。でも、自分は闘技場で鍛錬をしなくてはならないのだ。ここで引き返すわけにはいかない。 いやでもまさかあの二人に限って…ていうか闘技場だぞここ…。 悶々するエイトを他所に中からは未だにメイの苦しそうな声が聞こえる。それをジャックはどこか楽しそうな声で彼女を励ましていた。 やがてエイトは意を決して扉に手を掛ける。ギィ、という音と共に闘技場へ足を踏み入れるとメイの背中を押すジャックの姿が目に入った。 メイは足を開いて手を前に伸ばしている。その表情はこちらが見ていてもわかるくらい苦しそうな表情だった。 「あ、エイトおはよー」 「お、おはよう…」 「痛い痛い痛い!いきなり強く押さないで…!」 「あ、ごめんごめん」 ジャックはそう言いながら両手を離す。メイは顔を歪ませながら大きく息を吐いたあと、顔を上げてエイトに話しかけた。 「エイト、おはよう…」 「あ、あぁ」 「あれー?エイトなんか顔赤くない?」 「…気のせいだろ」 「いやいやぁ、顔赤いってー。ねぇ、メイ」 「ん?んー、そういえばなんとなく赤いような気が…」 「多分部屋から走って来たからかもしれない」 まさか二人のストレッチの声で変なことを考えていたとは口が裂けても言えないだろう。エイトの苦し紛れの言い訳に、メイは「朝から元気だねー」と言っていたが、ジャックはニコニコと笑みを浮かべているだけだった。 エイトはそれを見てピンとくる。 「…なぁ、ジャック」 「んー?なぁに?」 「ちょっとオレの相手をしてくれないか?」 「え゛っ…、あー、僕はメイのストレッチしなきゃいけないし…ね、ねぇ、メイ」 「ジャックにはもうストレッチは頼みません」 「えぇっ!?」 「ジャック、覚悟しろよ」 「ちょちょちょ、何指鳴らしてるの?!エイトごめんって、からかうつもりは――」 「問答無用!」 その日の朝の鍛錬はジャックの叫び声が闘技場に響き渡った。
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