27.5




 ニンジャチョコボが逃げ出して数時間後。俺は魔導院の前であのチョコボが帰ってくるのを待っていた。あのチョコボはメイが世話をしていたとヒショウから聞いた。だからチョコボが逃げ出した理由は絶対メイになんかあったからだと俺は思った。


「!」


 崖の影から紫色のチョコボがこちらに向かって走って来ているのが見える。紫色のチョコボでこちらに向かって来ているということはあのニンジャチョコボだ。
 ニンジャチョコボが俺の前に止まり一言鳴くと後ろを向く。チョコボの背中にはメイが居て一瞬肝を冷やしたが、外傷もないし気持ち良さそうに眠っている顔を見たら酷く安心した。


「……ったく…」


 俺はチョコボと共に魔導院へと戻り、チョコボ牧場へニンジャチョコボを置いてくると(かなり抵抗された)メイを背負って部屋へと運んだ。背負られているのに全く起きる気配がないということはよっぽど疲れているのだろう。あの時やっぱり連れて帰ればよかったと後悔した。

 部屋に着きベッドへと寝かせ、俺は一度魔導院へ戻った。





「「あ」」


 エントランスに出ると運悪くジャックと鉢合わせしてしまった。ジャックは笑みを浮かべつつも明らかに嫌そうな顔をしていたが、俺はいつも通り気さくに話しかけてみた。


「よぉ、任務、大成功だったらしいな」
「…まぁねぇ。これもメイが居たお陰かなー」
「!……メイと会ったのか?」
「うん、会ったよー。一緒に行動してたんだけどさぁ…途中で任務で別れ別れになって。メイ、魔導院に居るかなぁ」
「…メイなら今部屋で寝てるぜ」
「へ、」
「立て続けに任務やってたお陰でだいぶ身体が参ってっから、見舞いはすんなよ」


 そう言って再び歩を進めようとするが、腕を掴まれてしまい足が止まる。振り返れば少し眉を寄せたジャックが目に映った。


「なんだよ?」
「任務立て続けにやってたってどういうこと…?」
「そのまんまの意味だぜ。メイは裏の任務が終わった後、表の任務にも出るよう命令されたんだよ。俺はやめとけって言ったんだけどな」


 そうジャックに言うと弱々しく、そっか、と呟き0組の教室へと消えていった。珍しく何も言わなかったジャックを不思議に思いながらも俺は司令部へと行き用を済ませるとすぐメイの部屋へと向かった。


 メイが目覚めるまで部屋に居た俺は、メイが目が覚めてからも世話を焼くことにした。
 食事を持ってこようと一度メイの部屋を出てリフレッシュルームへと向かい、マスターから食事を受け取るとすぐにメイの部屋に向かった。





「…あら」
「!…どうも」


 メイの部屋に着き入ろうとしたら、何故かドクター・アレシアがメイの部屋から出てきた。どうしてこの人がメイの部屋に?それ以前にこの人はこんなところに来るような人ではない。
 俺が不思議に思っていると、ドクター・アレシアは俺の手元を見た。


「…あの子への食事かしら?」
「…そうです」
「早く良くなると良いわね」


 そう言うと歩き出したドクター・アレシアの背に俺は何故あなたがここに、と投げ掛けた。どうして胸騒ぎがするのだろうか。


「たいしたことじゃないわ。ああ、机の上に薬を置いておいたからあの子が目覚めたら飲ませてくれないかしら。よく効くと思うから」
「……わかりました」


 それだけ言うとドクター・アレシアは廊下から居なくなった。薬なんて0組以外の候補生には滅多にあげたりしないあの人が、ドクターと何も関係のないメイに薬をあげるだなんておかしい。

 俺はメイの部屋に入り、机に食事を置くと小さな小瓶が目に入った。多分、これがあの人の言っていた薬なのだろう。一応薬を飲むようメイに言うがもしメイに何かあったらただじゃおかない。

 ベッドに目を向けるとメイはぐっすり眠っていて、そばに寄り頬を撫でるとくすぐったかったのか少しにやけて寝返りをうつのだった。