君に出会えてよかった。
審判者を倒した。はずなのに、僕らはアギトになれなかったらしい。審判者になった奴が言った。また世界は終わり、新しい世界が生まれると。僕らは結局消えてしまう運命なんだと。 残された僅かな時間、僕と君は裏庭で寄り添いあう。僕は君の小さな手を握り締めて空を見上げた。空は、やっぱり赤かった。
「終わっちゃうのかなぁ」
不安げに君が呟く。僕はそれを聞いて、安心させるかのように左手に力を込めた。
「この世界は…終わっちゃうのかもねぇ」
僕らしくない言葉に君は目を丸くさせる。いくら馬鹿な僕でもわかる。この世界が終わってしまうことくらい。 でも、でもね、この世界に生まれてきたのは無駄じゃなかったよ。
「どうしてそう言えるの?」
不思議そうに首を傾げる君に、僕は微笑みを浮かべる。それは嘘偽りのない、君にだけに見せる本当の笑顔。
「だって、メイに会えたから」 「私に?」 「そう。この世界に生まれて、君に出会って、同じ時間を過ごせた。それだけで無駄じゃなかったって、胸張って言えるよー」 「…そっか、…うん、私も。ジャックに会えたから、この世界に生まれたの無駄じゃなかったよ」 「でしょ?むしろ感謝だねぇ。この世界に生まれさせてくれて、君に、メイに出会わせてくれて。変なこと言うかもだけど、この世界には結構感謝してるんだ」 「……うん」
頷く君の瞳には綺麗な涙が浮かんでいて、僕は頬に手を添える。ぽたりと手の甲に落ちたそれは、凄く綺麗だった。
「泣かないで」 「…泣く、よ…だって、ジャックと、会えたのに、またっ…離れ離れになっちゃう…ジャックのこと…忘れるのやだよ…!」 「大丈夫だよ、僕はメイのこと忘れたりしないから!次の世界でもメイを探し出してみせるし!」 「……っ」 「ね、メイ、僕が嘘付いたことあった?」 「…な、い……たぶん…」 「えっ、ここは断言するとこでしょ!?」
大袈裟に戯けて見せるとメイは目を細めてふっと笑った。うん、そうそう、その顔が一番君に似合ってるんだから、泣かないで、最後は笑って。僕のために。
「約束」
そう言って小指をメイの前に出す。メイは小指と僕の顔を交互に目を移すと、おそるおそる僕の小指に小指を絡めた。
「僕は次の世界でも、絶対ぜーったいメイに会いに行くから」 「…ん、私も、ジャックに会いに行く…!」 「!、えへへ、楽しみだなぁ。……っと、時間…みたいだねぇ」
目の前が真っ白に染まり始める。この世界が終わって新しい世界が始まる合図なのだろうか。 僕は絡めていた小指を離してメイの手をぎゅっと握り締める。その温もりを覚えるように、彼女のことを忘れないように。
「メイ」 「うん…?」 「次生まれてくる世界でも、絶対に見つける。だから、待ってて」 「…うん、私も、会いに行くね」
何度新しく世界が生まれても、必ず君に会いに行くよ。だって、僕らはそういう運命だから――。
君に出会えてよかった。この世界に感謝しよう。 (2014/09/29)
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