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 カルラに手伝ってもらってお風呂やご飯を済ませたあと、部屋の中が凄く賑やかになった。ジャックが皆に伝えたからか、0組の子たちが一斉に部屋に押し掛けてきたのだ。
 泣きそうな顔をしていたのはデュースとシンク、レム。ケイトは私の頭をぐしゃぐしゃにして笑って見せた。サイスさんは頭がボサボサになった私を見て鼻で笑い、セブンとクイーンは呆れるように笑っていた。
 他にも安堵した表情をしているエース、トレイにエイト。ナインは何故か鼻を啜りながら「心配させんなコラァ!」と怒られてしまった。キングはそんなナインを見て苦笑して肩を叩いていた。
 ふとジャックの姿が見当たらず周りを見回す。ジャックはベッドから少し離れたところで優しく微笑みを浮かべているのが目に入った。私と目が合ったことに気付くとにこっと笑い手を振ってくれた。それを見て自然と笑みが零れる。
 不意に手を叩く音が部屋に響いた。


「さぁあなたたち、今日はここまでにしますよ」
「え〜!もっとメイといたぁい!」
「我が儘言ってはいけませんよシンク。メイはまだ目が覚めたばかりなんです。無理をさせるわけにはいきません」
「うぅっ、そうだよねぇ〜…」
「また後日お見舞いに来ればいいじゃない!ね、いいでしょ、メイ」
「う、うん…」
「本当!?じゃあまた明日来てもいい?」
「…ん、もちろん」


 私がそう言うとシンクは嬉しそうに笑ってまた抱きついてきた。それを受け止めきれずにベッドの縁に頭をぶつける。痛みに悶絶していると、ケイトは盛大に笑い、シンクは慌てて顔を覗きこんできた。心配そうな表情をするシンクに、私は痛みを堪えながらなんとか笑みを作る。


「だ、大丈夫だから…」
「本当?頭変になってない?」
「変にって……ふふ、なってないよ。…多分ね」


 そう言ってシンクの頭を撫でると、シンクはパァと顔を輝かせて笑った。

 皆が居なくなるとさっきまで賑やかだった部屋に静寂が訪れる。カルラは空になった土鍋をお盆の上に乗せるとそれを持ち上げた。


「じゃあ私もこれ置いてくるから」
「うん。今日はありがとう、カルラ」
「いいっていいって。またなんかあったら遠慮なく連絡頂戴ね」


 そう笑って言うカルラに私は頷く。そしてカルラが部屋から出ていくのを見送ると、自分の膝で眠るトンベリの頭を撫でた。


「…皆、元気そうだったな」


 さっきの出来事を思い出して笑う。未だに前世と現実の違和感は拭いきれていないけれど、手から伝わるトンベリの温もりに安堵の息を吐いた。
 帰ってきた、というには少し語弊があるかもしれないが今はそんな気分だ。前世の中でも皆といたけれど、結局前世は前世でしかない。どんなことを話していたのか全く覚えていない前世よりも、今、皆と話せることがすごく嬉しかった。あのまま闇に呑まれていたら、きっと今の私はいなかっただろう。


「(これからの時間を大切に――)」


 前世で成せることのできなかったことを、今度こそ成すために。
 そう自分に言い聞かせながら、私は布団の中に潜り込んだ。



*     *     *



 翌日から入れ替わりで、色んな人が部屋に訪問してきた。
 皆が押し掛けてきた翌日は宣言通り、シンクとケイト、そしてデュースとレムが部屋に訪れた。四人は昨日クッキーを作ったらしく、一人じゃ食べきれないほどの量をもらった。五人(+トンベリ)で分けあって食べたが、なかなか量が減らないからと他の子たちに分けに行ったりして、他愛ない会話を楽しんだ。
 その次に来たのはクイーンとセブンとサイスさんだった。クイーンは私が眠っている間の課題の分と、参考書を持ってきてくれた。サイスさんはそれを見るなり眉を顰めて「まだ目ぇ覚めたばっかっつうのに課題とか、クイーン抜け目ねぇな」とぼやいていた。クイーンはそれを聞いてムッとしていたが、ふと課題の紙を見ると丁寧な字で課題の解説が書かれているのが目に入る。クイーンらしいと思いながらお礼を言うと、クイーンは柔らかい笑みを浮かべてくれた。
 セブンはご飯を持ってきてくれたり、サイスさんは「どーせ当分動けねぇんだろ?何か本持ってきてやるから言え」と何ともぶっきらぼうな言い方をされたが、持ってきてほしい本を答えると文句も言わずに持ってきてくれた。昔(前世)から変わらないんだなと思いながらサイスさんを見ていたら、あからさまに嫌な顔をして「見んな」と言われてしまった。少しだけ頬が赤くなっていたことは胸のうちにしまっておく。
 それからムツキが来てくれたときは物凄く大変だった。部屋に来て早々ずっと抱きついているし、トイレにもお風呂にもついてきたがった。もちろんそれは阻止したが、解放されたのは二日後のことだった。モーグリが来なかったら当分解放されなかっただろう。
 そしてカルラやアキに手伝ってもらって普通に歩くところまで回復した。まだ走ることはできないけれど、普段通りの生活ならできるようになった。


『メイー』
「なに?」
『えへへ。呼んでみただけー』


 そんな中、ジャックは毎日夜中にCOMMで連絡をくれる。他愛ない会話を数分するだけなのに、その連絡を待っている自分が少し恥ずかしかった。