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 1日で調子が良くなった私は気分転換がてら噴水広場に来ていた。
 昨日、二度寝したあと誰かが部屋に来た、らしいけど私は全く気が付かなかった。ずいぶん深い眠りについていたんだと思う。ナギから聞いた話によると私の部屋に訪れたのはあのドクター・アレシアで、机に置いてあったあの薬はドクター・アレシアからの贈り物だそうだ。
 ナギは危ないからやめとけって言ってたけど、まさか候補生を殺すような真似はしないだろうと思い、ご飯を食べたあと躊躇することもなくあの薬を飲んだ。そのお陰なのかわからないけど1日で調子が良くなった。ドクター・アレシアには今度会った時にでもお礼を言わなくては。


「メイ!」
「…なんだエンラか」
「なんだよ、俺じゃいけなかった?つーかもう大丈夫なのか?」
「え、何が」
「ナギから聞いたんだよ」
「…あーもう平気だよ」


 いつの間にエンラにまで言ってたのだろう。というかナギとエンラはいつから仲が良いのかさっぱりわからないんだけど。
 エンラは何故か顔をキョロキョロと動かしていたのでどうかしたのと突っ込む。


「あ、いやー今日はあいつと一緒じゃねぇんだな」
「あいつ?」
「0組の」
「ああ」


 ジャックのことか、と言えばエンラはそうそいつ!と元気よく答える。0組の名前くらい覚えておきなさいよと返せばあの子以外興味ないんだよと返ってきた。あの子って、あ、そういえば。


「エンラの好きな人ってレムさんだっけ」
「えっ!なんで知ってんだよ!?」
「いやこないだレムちゃんと話してぇなぁって言ってたじゃんよ」
「そ、そうだっけか…?メイよく覚えてんな…で、レムちゃんがどうかしたのか?!まさか怪我でもしたとか…!」
「え、エンラ落ち着いて…」
「あ、わりぃ。つい興奮しちまって…」


 レムさんの話を持ち出した途端、エンラが興奮気味に詰め寄ってきてなんだか少し引いてしまった。好きな人ができるとこうなるんだろうか。
 エンラはまだかまだかと目を輝かせて見てくるし、期待するほどでもないよと言ってもなんでもいいから聞かせてくれと言われ、引くに引けなくなってしまった。エンラにレムさんの話題をするのは間違いだった。次からは気を付けよう。


「別にたいしたことじゃないんだけどね」
「おう!」
「…こないだのトゴレス要塞攻略戦のとき、任務で一緒になったってだけで」
「なっ!レムちゃんと一緒に任務だと…!う、羨ましい…!」
「あのだけど」
「でもレムちゃんと一緒に任務したってことは、メイ、レムちゃんと友達になったんだよな!?」
「えぇ…それは」
「今度レムちゃんと一緒に俺のとこ来てくれないか!?頼む!メイしかいないんだ…!」
「………」


 この人全く人の話を聞かない。困ったことになった…。確かに自己紹介して一緒に行動はしたけど、友達ってほど親しくなってはいないんだよな。でもこの状況で断るとエンラが可哀想な気が…。
 両手を合わせて頭を下げるエンラに、私は肩を落としてわかったと承諾してしまった。超絶笑顔でお礼をするエンラにそんなに好きなのかと少しほっこりした。