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 エミナに相談してから数日が経ったある日、ジャックは自室のベッドで横になって考え事をしていた。天井を見ながらエミナのもらったアドバイスを思い出す。


「(アクセサリーって言われてもなぁ…どんな物をあげればいいんだろう…)」


 贈り物なんてしたことがないジャックはアドバイスをもらったはいいものの、どんなアクセサリーを選べば良いのか考えあぐねていた。
 本当なら本人に聞いたほうが一番早いかもしれない。でも彼女のことだ、聞いたところでそんなものいらないと言うに違いない。どうしたものか、と頭を捻らせるジャックの元へ、不意に扉を叩く音が部屋に響いた。


「はーい」
「私です」
「名前をどうぞぉー」
「……トレイです」
「トレイ?」


 ジャックは起き上がって扉を開ける。そこには少し険しい顔をしたトレイと、いつものような厳つい顔をしたキングが立っていた。どうして二人がここに、と目を丸くするジャックを押し退けて二人は部屋に入る。


「え、え?ちょ、いきなりどうしたのー?」
「決めましたか?」
「?何が?」
「その様子じゃ全く決まっていないようですね」
「?」


 溜め息を吐くトレイにジャックは首を傾げる。本当にわからないらしい。その様子にトレイは頭を抱えた。


「メイへの贈り物ですよ」
「えっ」
「あなたのことですからまだ何もしていないだろうと思いまして…。案の定何も考えていなかったんですね」
「う、な、何も考えてなかったわけじゃないんだけどなぁ」


 そう言いながら苦笑する。ジャックがちらりとキングを見ると、トレイがすかさず「キングには言いましたよ」と口にした。えっ、とまた目を丸くするジャックにキングが口を開く。


「まだ俺しか知らないから安心しろ」
「そ、そう…」
「何も考えてないわけではないということは、目星はついているのですか?」
「へ?あぁ、うーん…」


 ジャックはトレイの言葉に曖昧な返事をする。はっきりしないジャックにトレイとキングは眉間に皺を寄せた。唸り続けるジャックを静かに見守っていると、ジャックはおそるおそる口を開く。


「その、エミナ…教官に」
「エミナ教官?あの人に、なんですか?」
「…聞いてみたんだぁ、女の子の喜ぶプレゼントって何がいいのかなぁって」


 頬をかきながらジャックは言う。まさかここであのエミナの名前が出るとは思わず、トレイとキングは顔を見合わせる。


「それで?何と言っていたんです?」
「アクセサリー、がいいんじゃないかって言ってた」
「…アクセサリーですか」
「トレイはどう思う?」


 ジャックは首を傾げてトレイに問い掛ける。トレイは顎に手を当てて何やら考え込んでいて、トレイが口を開くより前にキングが口を開いた。


「アクセサリーと言っても色々あるだろ。どれにするんだ?」
「それが決められないんだよぉー…」
「まぁそうでしょうね。初めて女性に贈り物をするんですから悩むのも仕方ありません」
「本人が目を覚ましてからでも遅くないだろ」
「そうかもしれないけど、メイのことだからそんなのいらないって言われそうで…」
「メイなら言うでしょうね。彼女はそういうものを安易に受け取らないような気がします」


 トレイの言葉にジャックは肩を落とす。再び考え込むジャックを見て、トレイがパンと手を叩いた。その音にジャックとキングがトレイを凝視する。


「こういうのは現物を見て回るのが一番です」
「え、街に行くってこと?」
「それ以外に何があるんですか?」
「なるほどー、確かに現物見たほうが何か思い浮かぶかもしれないねぇ」
「そうでしょう?では早速明日、授業が終わったら広場に集合してくださいね」
「明日ね、うん、わかった!」
「ちょっと待て。俺は行かないぞ」


 キングのその一言にジャックがきょとんとした顔でキングを見る。トレイはというと、キングが行くのをさも当たり前だと言わんばかりに堂々としていた。そのトレイの姿にキングは眉間に皺を寄せる。


「まさかトレイ、最初からそのつもりでジャックのことを俺に言ったのか?」
「さぁ?なんのことでしょう」
「ねぇねぇキングも着いてきてくれるよねぇ?流石にトレイと二人っきりていうのはちょっと…」
「失礼ですね。私だって好きであなたと出掛けるわけではありません。ジャックがメイに変なものをあげないか心配なだけです」
「むっ、失礼だなぁ、変なものなんてあげないよー!」
「それなら良いんですけど。とにかく、キングも話を聞きましたよね?明日、授業が終わったあと広場に集合してくださいね」


 念を押すように言うトレイにキングは諦めたのか「あぁ」と肩を落としながら短く返事をした。それを聞いて、ジャックはふと疑問が浮かぶ。


「行くの僕らだけ?」
「えぇ。大勢で行けば女子に怪しまれますからね」
「えっ、女子には内緒なの?」
「そういうわけではないですが、横から茶茶を入れられたくないでしょう?」
「あー……うん、そうだねぇ」


 トレイのその言葉にジャックは納得する。それと同時に少しだけ自分の今までの行いを反省した。自覚していないわけではなかったけれど、ジャックもよく横から茶茶を入れていたからだ。これからは少しだけ気を付けよう、そう思いながらジャックは小さく息を吐いた。