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「デュース、メイ、大丈夫だったか?」
「はー、いきなりデュースんとこ行くから焦ったわー」
「二人が無事で何よりです」
「メイっちのギュンッて感じのダッシュ凄かったよねぇ〜!」
「うんうん!いつの間にデュースの前に居たのってくらい速かったよね!」
「エイトとジャックも良く間に合ったな」
「まぁ、な」
「…ですが、私の見間違えでなければあのバクライリュウ、足を振り上げたのにメイが目の前に来た瞬間、戦意喪失したような…」


 トレイの言葉に私は顔を俯かせる。バクライリュウは私が目の前に来たとき振り上げた足をゆっくりと元に戻していた。その時はまだ生きていたはずだ。確認する前に倒れてしまったけれど、あれは確かに戦意喪失していた。
 ナギとローシャナに来たときだって、ヨクリュウはナギだけを狙っていた。それを踏まえて考えると、例え蒼龍兵の命令であってもヨクリュウやバクライリュウは私を攻撃してくることはないと考えられる。今の段階では断言はできないけれど。


「とにかくさぁ、今は任務に集中しようよー」
「…ジャックに言われるとなんか腹立つなコラ」
「えーなんでー?!」
「そうですね。今は先を急ぐことにしましょう」


 クイーンの一言に私たちは止まっていた足を動かした。皆より後ろにいる私はジャックの背中を見つめる。いつも私を庇ってくれるジャックに胸が熱くなるのを感じながら、次のエリアへと足を進めた。

 次のエリアに足を踏み入れると、また後ろの通路が封鎖される。その先にいる蒼龍兵に向かって駆け出すと逃げ遅れたであろう朱雀兵の通信が入った。


『次の隊長は……いねぇか……俺の隊は……誰も残っちゃいねぇんだ……』
『目、目が?!見えねぇ!何も見えねぇよー!!』


 悲痛な叫びが耳から頭に響く。COMMで繋がっていても意味がない。そんなことわかりきっているのに助けられないのが悔しかった。
 蒼龍兵の攻撃に防御魔法で対抗しながら次々と倒していく。全ての蒼龍兵を倒し終わるとモーグリの少し焦ったような声が耳に入った。


『退路が塞がれそうクポ!先を急ぐクポ!』


 そうは言っても私たちの前に今度はヨクリュウが立ちはだかる。それをトレイとケイト、キングがスナイプモードで仕留めると私たちは先を急いだ。

 やっと南門方面に着くと朱雀兵や候補生が脱出口に向かって走っているのが目に入る。そこに朱雀兵が促すように「逃げて!」と叫んでいた。


『町に残ってるのは、そこの部隊で最後クポ。0組は撤退を支援するクポ!!』


 そこへ任務が更新される。撤退が完了するまで蒼龍軍を食い止めるよう指示が下り、私たちは武器を手に蒼龍軍を迎え撃った。
 戦術は先ほどとさして変わらず前衛と後衛で別れる。味方が撤退するまでの数分間、蒼龍兵との交戦が始まった。
 暫く蒼龍兵と戦っていると空からヨクリュウがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。私はCOMMで後衛にいるケイトたちにそれを知らせると、ケイトたちは素早く反応してヨクリュウを倒していく。ヨクリュウが増えてくると、エースや魔力が残っているクイーンが後衛に来てヨクリュウの相手をする。前衛に回復魔法を詠唱し放ったあとすぐに後衛に防御魔法を詠唱し放つ。それを繰り返すこと数分、COMMにモーグリと武官から通信が入った。


『部隊の撤退が完了したクポ』
『敵の別動隊が退路を断とうとしている。お前たちも後退を開始しろ』


 それを聞いた私たちは急いで脱出口に向かった。

 郊外への道に辿り着くと、数人の候補生と朱雀兵が目に入る。どうやら負傷していてここから逃げられないらしい。


『任務更新クポ。蒼龍領土から脱出するクポ』
「モーグリ、彼らは…?」
『逃げられない人たちクポ。しょうがないけど置いていくしかないクポ』


 モーグリの言葉にぐっと唇を噛む。横たわる候補生や座り込む朱雀兵はまだかろうじて生きている。それを見殺しにしろと言うのか。


「待ってくれ、拾ってくれよ。俺の足ぃ……頼むよ、俺の……」
「これで終わりなのか……?何だよ、この人生は……なんなんだよぉ!」
「連れてって……ねぇ……連れてってよぉ…!」


 生にしがみつく彼らから訴えかけられるそれに、手を強く握り締める。ここで彼らを連れて行っても自分達の首をしめるだけだ。
 足手纏いにしかならないのなら切り捨てていくしかない。死ねばクリスタルが忘れさせてくれる。今は罪悪感でいっぱいでも、彼らが死ねば――。


「はぁ、はぁ…まいった…」
「!」


 聞き覚えのある声に慌てて顔をあげる。そこには膝に手をついたトキトさんの姿が目に映った。