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 南門方面に向かっていると、COMMから朱雀兵の弱々しい声が耳に入る。


『隊長……?もう覚えてねぇな……死んだんだな…』
「敵を発見!」


 その声を聞きながら、私たちの前にフブキと蒼龍兵が立ちはだかる。槍を投げてくる蒼龍兵に前衛にいる彼らに向かってプロテスを張り巡らせる。直接攻撃してくる蒼龍兵の槍をかわしながら、蒼龍兵の槍を持つ手を蹴りあげた。続けてサンダーを唱える。


「いっ!?」
「はぁっ!」


 蒼龍兵の手から槍が飛んでいき、サンダーを放とうとしたら突如サイスさんの声と共に大鎌が蒼龍兵を襲う。空を切る感覚を頭上で感じた私は、力なく倒れる蒼龍兵を見ながらおそるおそる後ろを振り返った。


「さ、サイスさん…」
「あ?んだよ」
「今、大鎌振るったとき私の頭スレスレだったよね…?」
「はっ、"気のせい"だろ」


 ふい、と顔を逸らして先を行くサイスさんの後ろ姿に私は溜め息を吐いた。サイスさんの言葉にチクリと胸が痛む。さっきの言葉は私が教室を出る前にサイスさんに言った言葉だ。サイスさんがそれとなく私を気にかけてくれていることにくすぐったい反面、申し訳なく思った。
 蒼龍兵を倒し終わるとモーグリから進路が開けたと報告が入る。先に進んでいくと蒼龍兵が次々と現れ、フブキもあちこちに湧いて出てきた。フブキと蒼龍兵を難なく倒し終えた私たちは次のエリアへと入る。
 次のエリアではモンスターのゴウセツと蒼龍兵が襲い掛かってきた。道を挟んで槍を放ってくる蒼龍兵に、キングとトレイがすかさず銃と弓で対抗する。私は前衛でゴウセツと戦う彼らに向けて防御魔法と回復魔法を放ち、蒼龍兵の足もと目掛けてファイアを放った。
 バランスを崩した蒼龍兵にセブンが追い撃ちをかける。ゴウセツの方もそれほど時間がかかることもなく倒し終えると、さらにゴウセツ2体と蒼龍兵が現れた。
 ケイトがうんざりするような声をあげる。


「こいつ面倒くさっ!」
「ゴウセツは体力が他のモンスターよりありますからね、仕方ありません。そもそもゴウセツとはスノージャイアントの系統で」
「オイコラトレイ!んなこと語ってる暇あったら手ェ動かせっての!」
「言われなくとも動かしてます、よ」


 そう言いながらトレイから放たれた矢は一直線にゴウセツの頭を撃ち抜く。ゴウセツはトレイのその一撃で背中から倒れた。呆然とするナインとケイトにトレイはフッと笑みを浮かべて、蒼龍兵に向かって矢を放つ。ナインとケイトはお互い顔を見合わせると、顔をしかめた。


「今アタシイラッとした」
「奇遇だな、俺もだ」


 そんなことを呟いた後、敵に突っ込んでいく二人を私は防御魔法をかけながら静かに見送った。

 ローシャナの広場に入るとバクライリュウが目に飛び込んできた。間近で見るバクライリュウに少し怯むも、各々攻撃態勢に入る。


「囲め!逃がすな!」


 バクライリュウが噴火攻撃のモーションに入るのを見て、私たちは広場に散り散りに離れた。噴き上がる火柱を避けながら私は防御魔法と回復魔法を交互に唱える。ケイト、トレイ、キングは離れた位置からバクライリュウを狙い撃ち、デュースや私は攻撃を受けないように援護し他はバクライリュウに少しずつ攻撃していく。確実に体力は減っていて、もう少しのところで突然バクライリュウの攻撃速度が上がった。


「!?はやっ…」
「最後の悪足掻きってやつか…!」


 バクライリュウは私たちの攻撃をかわしながら突進してきて踏みつけの攻撃をしてくる。そのバクライリュウの踏みつけは一発でも食らうとかなりダメージを受けてしまう。防御魔法を唱えつつ、どう援護に回ろうか思考を巡らせていると突然バクライリュウがデュースに向かって走り出した。


「!(やばい…!)」


 今のデュースは他の皆を援護する笛の音を出してくれている。皆が強いのは重々承知だが、デュースの笛の音で助けられているのも確かだ。援護の要であるデュースが倒れてしまうと、これから先不利になる可能性も否めない。
 バクライリュウの速さに間に合うかわからないが、私はぐっと足に力を入れて勢い良く蹴った。


「!メイさん!」


 デュースに向かって大きく足を振り上げるバクライリュウの前に何とか間に合った私は咄嗟にプロテスを自身にかける。振り上げた足を睨み付けると、バクライリュウは何を思ったのか振り上げた足をゆっくりと元に戻した。


「え…」
「なっ…」


 呆然とする私とデュースに、突然バクライリュウが横に倒れる。その後ろにはエイトとジャックが居て、二人の一撃を受けてバクライリュウは倒れたのだと悟った。


「大丈夫か?二人とも」
「え、えぇ、大丈夫です。ありがとうございました、エイトさん、ジャックさん。メイさんもありがとうございました」
「えっ私は別に何もしてないし、お礼なんて…」


 手を左右に振る私にデュースは優しく微笑みながら「庇ってくれたじゃないですか」と言うものだから、なんだかくすぐったい気持ちになり視線をデュースから逸らした。