240.5




 ローシャナ撤退戦の任務を受けチョコボでローシャナに向かって走り出す。メイのチョコボは用意されていたチョコボと違い足が速いため、0組より数十メートル先にいた。
 ジャックはメイの後ろ姿をぼんやりと見ていたら「おい」とサイスがジャックに話し掛ける。サイスから話し掛けられたことに驚いて振り向くと、眉間にしわを寄せたサイスと目が合った。


「サイスから話し掛けてくるなんて珍しいねぇ。どったの?」
「…あんたに言うのは正直迷ったけど、あたしらの中で一番メイを見てるのあんたくらいだしね」
「?、えぇと、何が言いたいのー?」


 首を傾げるジャックに、サイスは先を行くメイの背中に視線を向けながら口を開いた。


「メイが教室を出る前、メイの足もとふらついてた」
「えっ…」
「気のせいだとか何とか言ってたが、ふらついてたのは間違いない。あたしから逃げるように教室出てったし」
「…そか」
「朝も珍しくメイが一番最後だったし、用心しといたほうがいいかもな」


 そう言うとサイスは何事もなかったようにジャックから離れる。ジャックはメイの後ろ姿を見つめながら、手綱を持っている手をぐっと握り締めた。
 メイの異変には気付こうと思えば気付けていた。朝、ジャックはいつものようにCOMMを使ってメイに連絡する。その時、メイは既に起きていて教室かチョコボ牧場、クリスタリウムに足を運んでいたりしていた。なのに今日の朝はいつもと違って、COMMから聞こえてきたのはメイの眠そうな声だった。メイが寝坊するなんて珍しい、と思ってはいたが人間誰だって寝坊するときはあるとその時は気にしていなかった。
 けれど、サイスから聞いた話でジャックは一気に不安に駆られる。用心したほうがいいのは勿論、何故か嫌な予感がしてならなかった。


 ローシャナに着いて任務を遂行する中、ジャックは常にメイのことを気にかけていた。ヨクリュウは遠距離攻撃のできる人に任せて、ジャックは蒼龍兵や飛ばないモンスターを相手にする。ジャックは前衛にいるがメイは後衛にいて、なかなか声をかけられないでいた。
 どうにかして声をかけられる距離にいきたい。そう思いながら次のエリアに入ると、そのチャンスはすぐにやってきた。
 ヨクリュウがナイン目掛けて火球を放つ。それをかわしたナインはヨクリュウに反撃しようと槍を構えたが、エースが不意を突いてヨクリュウを倒してしまった。
 憤慨するナインにメイが声をあげる。


「あっ、ナイン!あそこの敵がナインのこと狙ってるような気がする!」
「なんだとコラァ!俺の獲物ー!」


 そう言うとナインはヨクリュウに向かって駆け出していった。それを見送ったエースとメイが顔を見合わせている光景を見て、ジャックは無意識にメイに手を伸ばす。


「よぉし、僕も頑張るぞー!」
「えっ、ちょ、私前衛に行く気ないんだけど…!」


 慌てるメイの手を引いたままジャックはナインの後を追う。メイはヨクリュウの攻撃を受けているナインに向かって回復魔法を放つのを見て、ジャックはちらりと後ろを振り返った。
 ナインがヨクリュウを倒し終わると槍を高々とあげる。


『敵の布陣が崩れたクポ!』
「おっしゃあ!次行くぞ次!」
「ナイン元気だね…」
「ナインは元気だけが取り柄だからねぇー」


 そう言うとメイは駆け出すナインを慌てて追い掛けようとしていて、ジャックはすかさずメイの手を自分に引き寄せた。目を丸くするメイを見ながらジャックは眉尻を下げて口を開く。


「な、なに?」
「体、しんどくない?」
「えっ…」
「…あんまり無茶しないでね」


 メイの頭をポンと軽く叩いてジャックはナインを追い掛けた。本当はもっと言いたいことはある。あのギクリとした反応はサイスの言った通りで、朝寝坊したのも偶然ではなかった。
 本当ならメイには任務を放棄してもらいたい。でも体調が万全でないのはメイが一番良くわかっていて、それでもなお足手纏いにならないよう一生懸命戦っていて、今更帰ってくれ、休んでてくれなど言えなかった。
 メイのしたいことを止めるつもりはない。体調が悪いならその分自分がフォローに回って守ってみせる。
 そう強く思いながら、ジャックは刀の柄を強く握り締め、襲い掛かってくる蒼龍兵に向かって刀を振りかざした。