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 ヒリュウがローシャナから離れようと奮闘するが、ヨクリュウが度度邪魔してきて思うように進めない。しかもそのヨクリュウは私やヒリュウに攻撃をしてこないかわりに、ナギだけに向かって突進攻撃をしているようだった。
 ヨクリュウを動かしているのは蒼龍兵に間違いはないけれど、肝心の蒼龍兵が見当たらなければ攻撃をやめさせることはできない。蒼龍兵に命令されているはずなのに私を狙ってこないヨクリュウに首を捻るが、今はそれどころじゃない。
 ヒリュウは何回も旋回してヨクリュウの攻撃をナギから逸らしているが、ヒリュウの体力も心配だ。どう回避しようか思考を巡らす。ふと、ビッグブリッジで戦った時のことが脳裏に浮かんだ。ジャックと二人で残って魔導アーマーと対峙した時を思い出す。


「インビジ…そっかインビジだ」
「うおっと、インビジ、か。なるほどなっ」


 ヨクリュウの攻撃をかわしながら呟く。私は急いでインビジの詠唱を始めた。インビジは大量の魔力を消費するが、数秒の間姿を消すことができる。ヒリュウを含めるとそれなりに魔力がなくなるだろうが、今はそんなこと心配している場合じゃない。
 私が詠唱する間、ナギはヨクリュウの攻撃をかわし、ヒリュウもナギにヨクリュウの攻撃が当たらないように旋回し続ける。そしてその数分後、インビジを唱え終えた私はヒリュウと自分に向かってインビジを唱えた。
 フッと消えた私たちにヨクリュウの攻撃が止まる。そして探すような素振りで顔を動かしているヨクリュウを他所に、私たちはヨクリュウの大群を抜けて朱雀と蒼龍の国境へと急いだ。


*     *     *


 何とか無事に国境を越えることができた私たちは、朝日が昇る前に魔導院へ戻る。チョコボ牧場に降り立つヒリュウに回復魔法をかけると、ヒリュウはすぐにチョコボ牧場を後にした。
 無事戻れたことに安堵の息を吐く。そんな私にナギが私の肩を叩いた。


「お疲れさん」
「ナギも、私の我が儘に付き合ってくれてありがとう」
「おう、もう慣れてるよ」


 歯を見せて笑うナギを見て頬が緩む。本当にナギが幼馴染みでよかった。そう思っていると二羽の雛チョコボが私たちに近付いてきた。朝から元気よく鳴いて、翼をパタパタさせている。


「直にヒショウたちも来るだろうし、行かなくちゃな」
「だね」


 魔法陣に向かう前にニンジャチョコボの小屋を覗き込む。ニンジャチョコボは既に起きていて、体を起こしゆっくり私に近付いてきた。
 顔を突き出すニンジャチョコボの嘴を撫でると気持ち良さそうに目を細めた。


「また来るね」
「おーい、行くぞ」
「はーい」


 嘴から手を離すとナギの後を追い掛ける。魔法陣に入る前、いきなりナギが私の名前を呼んだ。顔を上げると困惑しているような表情をしたナギと目が合う。


「なに?」
「んー…なんつーか、今日色々あったし俺自身まだ把握できてねぇけど、でも俺はメイのこと信じてるから」
「…疑ってるの?」
「四課や上層部がな。まぁ、お前も気付いてるだろうけど、あんまり軽率な行動を取ったりするなよ」


 ナギはそう言って笑みを作った。その笑みが何だか苦しそうで、それを見てピンと来る。
 これは私の憶測だが、ナギは多分四課や上層部から私を監視するよう命じられている気がする。そう考えると今回のことといい、ムツキのときのことといい、タイミング良く私の前に現れていたのも合点がいく。ナギと私が幼馴染みであることは四課も上層部も知っているし、私を監視させるならナギが一番適任だ。
 私を信じると言っても任務を放棄するわけにもいかない。上層部と私で挟まれているナギに対して申し訳なく思った。


「ナギ、信じてくれるって言ってくれてありがとう。でも私のことはいいから、自分のことだけ考えて」
「………」
「今回のこと、上層部に報告しなくちゃいけないんでしょ?私なら大丈夫、ドクターが後ろ盾してくれると思うし」
「ドクターが完璧に守ってくれるとは限らねぇだろ?」


 ナギの言葉に私は口をつぐむ。この間はたまたま助けてくれたが、もしかしたら今回は助けてくれないかもしれない。ジャックも0組も関わっていないから。でもドクターに守られなくても、私は――。


「っと、人の気配がするし、この話はまた後でな。多分0組にもローシャナへの出撃要請が出ると思うから。あんま無茶すんなよ。あと、服濡れてんだから風邪引かないようにな」
「…うん、ナギもね」


 そう言うと魔法陣が発動してナギが消える。ナギが消えたあと、私も魔法陣で女子寮に向かった。
 部屋までの道のりがやけに遠く感じる。頭がぼーっとして足下も覚束ない。魔力を使いすぎた反動か、それとも雨に打たれたせいかと息を小さく吐く。既に朝日は昇っていて、数時間もすればナギの言う通り出撃要請が下るだろう。それまでにはこの気だるさがなくなりますようにと祈った。