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皆が寝静まった頃、私はチョコボ牧場に足を運んでいた。ヒショウさんやオオバネさん、ツバサさんがいないのを確認すると空を見上げてヒリュウを呼び寄せる。待つこと数分、この場所に相応しくない翼の音が聞こえてきた。 月の明かりに照らされる牧場の地面に大きな影が落ちる。そこにゆっくりとヒリュウが降りてきた。
「元気そうでよかった」
跪くヒリュウに近付いて顔を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じる。見たところ外傷は見当たらない。どこで何をしているのか私にはわからないが、外傷もなく元気にしているようで安心した。 ヒリュウの背中を撫でていると突然ナギが目の前に現れる。いつものことだから慣れてしまったけれど、私以外の人だと驚くからやめろと言ったはずだがどうやらナギは覚えてないらしい。
「よっ」 「…ナギのその魔法、便利だよね」 「俺はお前の魔法のほうが羨ましいけど」
そう言いながらナギは目の前にいるヒリュウを見上げる。突然現れたナギにびっくりしていたヒリュウだったが、私の知り合いだとすぐに悟り大人しくしていた。
「間近で見るとでけぇなやっぱ」 「だねー。ていうか、こんな時間にどうしたの?」 「あぁ、今ローシャナの偵察に行ってきたんだけどよ」
ナギの言葉に、咄嗟に浮かんだのはトキトさんとシノさんの顔だった。今二人はローシャナ制圧に向けて出撃している。嫌な予感がしながらもナギからの言葉を待った。
「最初こそ朱雀が優勢だったんだが、蒼龍軍の抵抗が予想以上に激しくてな。逆に反撃を食らってるらしい」 「えっ、じゃあ状況は…」 「あぁ、最悪だな。さっき報告してきたから、明日辺りに出撃要請が下るかもしれねぇ」 「………」
トキトさんやシノさんは大丈夫だろうか。まだ記憶はハッキリ覚えてるから生きてはいるけれど、もしかしたら傷を負っているかもしれない。トキトさんの想いとシノさんの想い、それを考えるといてもたってもいられなかった。 ヒリュウを見上げる私に、ナギが先手を打つように声を上げた。
「お前一人で行ってどうにかなる相手じゃないことくらい、わかってるだろ」 「…そうだけど」 「何かあるのか?」
ナギは私の気持ちを汲むように問い掛ける。私は顔を俯かせておそるおそる口を開いた。
「トキトさんとシノさんが…」 「なるほどな。でもこればっかりは無事に帰ってくるのを待つしかねぇよ」 「だからって死んだら元も子もないよ。絶対生きて帰ってきてくれなきゃ、せっかく伝えるって決めたのに」 「…どういうこと?」
ナギは眉を顰めながら私を見つめる。 私にできることがないのは自分が一番よくわかってる。だけどやっと想いを伝えると決意した二人の気持ちが無駄になってしまうのが嫌だった。 追求してくるナギに言ってもいいのかと一瞬躊躇うが、ナギもトキトさんのエミナさんに対する気持ちは知っているだろう。私は心の中でトキトさんに謝罪しながら口を開いた。
「トキトさんが、今度の作戦が終わったらエミナさんに気持ちを伝えるって」 「へぇ、とうとう言うのか」 「だから生きて帰ってきてもらわないと…」
シノさんだって報われない。ナギに聞こえるかどうかわからないくらい小さな声で呟く。そんな私に、ナギは呆れたように溜め息を吐いた。
「その辺は昔から変わらないな」 「え?」 「口では他人のことなんてどうでもいいとか言ってたけど、結局他人のこと考えて行動してたし」 「…そうだっけ」 「何回も言うけどさ、他人のこともいいが、ちっとは自分のことも考えろよ」 「ご、ごめん」 「まぁ、そんなメイが好きなんだけど」
さらっと言うナギに暫く呆然としてしまう。当の本人は平然としていて、ヒリュウに触ろうと手を伸ばしていた。
「なぁこいつどう乗るんだ?」 「えっ…あ、こ、この毛掴んで…」 「毛?うっわ、なんだよこのごわついた毛!?ヒリュウってこんな毛つけてんのかよ…」
ナギは顔をしかめながらヒリュウの背中の毛を触る。私は眉を寄せて何をする気なのかと不思議に思っていると、ナギが振り返った。
「行かねぇの?」 「…は?」 「戦場には行かせられないが、様子を見に行くことくらいなら許してやるよ」 「許してやるって…」 「一人で行かせると無茶するだろうからな」
そう言ってナギはにやりとほくそ笑む。そういうことかと納得した私は、ヒリュウの背中に乗りナギの手を取った。ナギを後ろに乗せるとヒリュウに飛ぶよう呼び掛ける。ヒリュウはそれに応えるように翼を広げ、地面を蹴った。
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