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鴎歴842年 嵐の月25日 ビッグブリッジ攻防戦でミリテス・コンコルディアが受けた傷は、戦力という人的なものだけに留まらず、兵士たちの精神面にも及んだ。 両国の兵士たちは召喚獣を恐れるようになり、元々対個人の戦力差が大きかった朱雀は数で敵わぬはずのミリテス・コンコルディア連合を圧倒し始めた。 朱雀八席議会はこの状況を機と捉え、両国に対し、本格的な首都侵攻を始める旨を達した。 * * * この日、院生局局長が0組の教室にやってきた。わざわざ院生局局長が赴くなんて珍しい、そう思いながら局長を見つめる。モーグリは皆に席に座るよう促し、院生局局長が私たちを見回した。 「アテンション!!」 「直接会うのは初めての方も多いですね。私は院生局局長ミオツク。隊長不在の0組へ通達にきました。新たな隊長の選定も考えましたが、あなたたちの特殊性を鑑みて、このままとすることにします」 局長の発言に各各が顔を見合わせる中、局長はそのまま続ける。 「現在のミッションは2つ。【コンコルディア首都攻略】と【ミリテス首都攻略】。まずはコンコルディアにて蒼龍を落としてもらいます。では、モーグリ、後は頼みましたよ」 「クポッ!!」 「クリスタルの加護あれ」 それだけ言うと局長は教室を後にする。取り残された私たちは、モーグリの前に集まった。 セブンが腕を組みながら口を開く。 「結局、どういうことだ?」 「端的には、何も変わらないということだな」 「ミッション前のブリーフィングはどうするのかな?」 レムの問いにモーグリが両手をあげた。 「ボクがするクポ!」 「そうだねぇ〜、ブリーフィングがないと困るよねぇ〜」 まるでモーグリの話を聞いていないシンクに、モーグリはシンクが見える位置に移動する。 「だ、だからボクがするクポ!!」 「まぁ、現地にいる武官たちに聞いてもいいかもねー」 ジャックの口ぶりに完全にモーグリのことをからかっているんだなと悟る。モーグリはジャックの目の前に移動して、シンクと同様目一杯アピールした。しかし、全くモーグリに目を合わそうとしない。 「ぼ、ボクが――」 「作戦命令は変わりなくおりてくるから、COMMに気を付けてればいいんじゃない?」 ケイトの言葉にモーグリは完全に意気消沈する。それを見兼ねた私はモーグリに声をかけた。 「モーグリ、あんまり気にしないで」 「くぽぉ〜………でも…」 肩をがっくりと落として落ち込むモーグリに、私と同様に見兼ねたキングとデュースがモーグリに声をかけた。 「冗談だよ。落ち込むな」 「そうですよ。ミッションの指揮もお願いしますね」 「うぅ、キングとデュースとメイは優しいクポ」 * * * あのあと、私はトンベリと一緒に教室を出てチョコボ牧場に足を運ぶ。チョコボ牧場に入るがいつも駆け寄ってくる雛チョコボの気配はなく、不思議に思っているとエースの後ろ姿が目に入った。エースの足元に二羽の雛チョコボもいる。 そういえばさっき院生局局長が出ていったあと、エースもすぐ教室からいなくなっていた。ここに来ていたのかと思いながら一歩一歩エースに近付いていく。手の届く距離まで近付き、声をかけようとしたら不意にエースがあの歌を歌い始めた。 「迷子の…足音消えた…代わりに祈りの唄を…そこで炎になるのだろう…続く者の灯火に…」 以前もテラスで歌っていた歌をエースは口遊む。するとその歌を聞いた瞬間、見えていた景色が突然真っ暗になり、そして映像が目の前に映し出された。いきなりのことで言葉をなくし呆然とする。 その映像には、崩れた建物の中に立つ旗のようなものがあり、その辺りに七色の光が降り注いでいる。しかし視界が徐々にぼやけ始め、目を凝らすもやがて映像は消えてしまった。次に目の前に現れたのはエースの驚いた顔だった。 「メイ?」 「…あ、れ。エース…?」 「人の気配がして振り返ったらメイがいたから、びっくりしたよ」 そう言って微笑むエースに、私は顔をキョロキョロと動かす。普通のチョコボ牧場の風景が広がっていて、さっきのはなんだったのかと首を傾げる。そんな私を不思議に思ったのか、エースが「どうかしたのか?」と声をかけてきた。 「…ううん、なんでも」 「そうか?」 「そういえば、またあの歌、歌ってたね」 私が話題を逸らすと、エースは少しはにかみながら目線を逸らした。 「やっぱり聞いてたのか」 「ごめん、盗み聞きしちゃって」 「いや、別にいいさ。聞かれたの二度目だからな」 エースはそう言いながら、牧場の中を走るチョコボに視線を向ける。私もそのチョコボに視線を向けると、エースの声が耳に入った。 「多くの候補生や、朱雀兵、それにチョコボも死んでいった。死んだ者にこの歌が届けばいいと思ってさ」 「…そっか」 そのままお互い喋ることなく時が流れる。足元でトンベリと雛チョコボが戯れているのを見て自然と頬が緩んだ。ふと視線を感じて顔を向けるとちょうどエースと目が合う。エースは何故か慌てて私から目を逸らすものだから、その慌てぶりに声をかけてみた。 「どしたの、エース」 「いや、なんでもない、気にしないでくれ」 「そう?」 心なしか耳が赤く染まっている気がする。エースの反応を不思議に思って続けて声をかけようと口を開いたその時、チョコボ牧場の魔法陣が反応した。魔法陣に視線を向ければ、勢いよく走ってくるジャックの姿が目に入る。 「メイー!」 「…はぁ」 「いつも大変だな」 「そう思うならたまには助けっぶふっ」 「エースゥゥ!メイを口説くなぁー!」 「落ち着けジャック。メイが苦しそうだぞ」 ジャックに勢いよく抱き付かれ、頭がぐわんと大きく揺れる。そのまま抱き締められたから倒れはしなかったが、今度は抱き締める力の強さに苦しむ。エースの言葉にジャックは少し力を緩ませたものの、私を離そうとはしなかった。 「もー僕が目を離すとすぐどっか行っちゃうんだからー!」 「どこに行こうが私の勝手でしょ…」 「う、そ、そうかもしれないけどさぁ…」 「ジャック、程々にしておけよ」 「え、エース!ちょ、程々じゃなくて、もっと叱ってやってよ!」 「りょおかぁい!ほどほどにしておきまーす!」 「いや、あんたの程々は全然程々じゃないから!」 エースはそんな私たちを笑いながらチョコボ牧場を後にした。
エースはエントランスに出ると小さく息を吐き、そして苦笑を浮かべる。 (チョコボとトンベリと戯れるメイを見惚れていたなんて、口が裂けても言えないな) そう思いながらエースは0組の教室へ足を向けるのだった。
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