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レムさんと一緒にサロンからリフレに移動する。リフレに着き、皆のところに行くとケイトが待ちくたびれたように「おそーい!」と声を発した。その声に苦笑いしながら、レムさんはマスターからドリンクをもらい、クイーンさんに声をかけた。
「ごめんね。えっとクイーン、隣いい?」 「えぇ、いいですよ」
レムさんはクイーンさんの隣に腰をかける。私もセブンの隣に移動してソファに座った。ふと男子のほうを見ると、皆並んでご飯を食べている。その姿が異様におかしくて、ついつい笑ってしまった。
「メイっちなに笑ってるのぉ〜?」 「あ、あの姿が異様に面白くて…笑っちゃ失礼だけど」
なるべく男子に聞こえないよう小声で喋る。するとシンクもうんうん頷きながら笑って口を開いた。
「だよねぇ〜!あれは笑わずにはいられない…」 「シンク、口を閉じろ。あいつらが聞いたら食べにくいだろう」 「あはは、そうだったぁ〜」
シンクは舌をペロッと出す。幸い私たちの会話は聞こえていないらしく変わらずご飯を食べていた。
「ねぇねぇメイの生い立ちっての、アタシ知りたいんだけど!」 「え?あ、あぁ、そうだったね」 「その前にレムさんも揃ったんですから、乾杯しましょう!」 「そうですね、ではメイさん、一言お願いします」 「えぇ?!」
クイーンさんにいきなり振られ、驚きのあまり声をあげる。すると私の声に反応した男子までもが私のほうに視線を寄越してきた。軽率だった、と思ったときにはもう遅く、ケイトやサイスさんがニヤニヤしながら「早くー」とか「恥ずかしいのかよ?」と囃し立ててきた。
「いや、普通に乾杯でいいんだけど…」 「今日の主役はメイさんだよ!」 「えぇ…」
レムさんがにこにこしながら言うものだから、反論も何も言えなくなる。男子たちもこの時ばかりは箸を止めて私を見ているし、女子も女子でにこにこ笑みを浮かべながら私を見ていた。 羞恥で顔に熱が集まるのを感じつつ、私は諦めて口を開く。
「不束者ですが…よろしくお願いします…」 「ふふ、こちらこそよろしくお願い致します。では、乾杯!」 『かんぱーい!』
クイーンさんの乾杯で皆がグラスを高高にあげる。恥ずかしいやら何やらで顔を手で扇いでいると、セブンが声をかけてきた。
「これからもよろしくな」 「う、うん。こちらこそよろしく」 「あとジャックのことも、な」 「えっ?!ちょ、な、いきなり何言い出すの!」
セブンの言葉に思わず動揺してしまい、しどろもどろになってしまう。そんな私の反応を楽しむかのようにセブンは微笑みを浮かべていた。 カラカラに乾いてしまった喉を潤すためにアイスカフェを口に含む。氷が溶けてしまったせいか、カフェオレの味はほとんどしなかった。
「でさ」 「ん?」 「メイの生い立ち聞きたい!」 「わたしも〜!」 「僕もー!」 「えっ」
ケイトの声にシンクが手を上げて便乗するようにジャックも手を上げる。ジャックの前にあるお皿はいつの間にか空になっていた。 驚きながらジャックのほうを見ると、ご飯を食べていたジャック以外の男子も箸を止めているのに気付く。サイスさんはどうでも良さそうな態度だが、クイーンさんやレムさん、デュースさんが食い入るように私を見ていて、自然と顔が引きつった。
「大した生い立ちじゃないし、ていうか君らはご飯食べてなよ」 「私もメイの生い立ちが気になりますし、ご飯は逃げませんからお気になさらず」 「オレも気になるな。メイが今までどんな生き方をしてきたのか」 「まぁ、メイのことだからのほほーんと生きてきたんじゃねぇのかオイ」 「ナイン、メイは一応9組だったんだぞ。のほほんとしてるわけないだろう」 「みんなメイのこと気になるんだよー。あ、僕はいつも気になって」 「というわけだ。聞いてもいいか?」 「…まぁ、いいけど」
ジャックの言葉を遮るエースに、ジャックが軽く口を尖らせる。私の生い立ちなんて本当に大したことないのに。そう思いながら、私はグラスを置いて口を開いた。
「えーと…どこから話せばいいかな」 「では、出身地はどこですか?」 「んー…今はもうないんだけど、朱雀と蒼龍の国境辺りにあった小さな村かな」 「今はもうないの?」 「うん。候補生になったあと、蒼龍に襲撃されて無くなったって聞いたから」 「えっ、じゃあ親とかは?」 「両親は小さい頃に亡くなったんだ」 「へぇ〜、わたしたちと一緒だねぇ」 「え?」
シンクがそう答えると私は皆の顔を見渡す。皆は苦笑いを浮かべていて、どうやらシンクの言ったことは事実らしい。12人いる中で皆同じ境遇なのは偶然とは考えにくいけれど、皆の顔は嘘を言っている様子ではなかった。 私が何とも言えないでいると、見兼ねたデュースさんが口を開いた。
「あ、あの、メイさんはご両親が亡くなったあと、どうされたのですか?」
デュースさんのその問いにあの時のことを思い出す。 両親が亡くなったという知らせを受けたその翌日、朱雀兵の人たちが私を孤児院に連れて行こうとしていたが、隣に住んでいたナギとナギの母親が出てきて私を引き取ると言ってくれた。そのお陰で孤児院に行かなくて済んだのだと言ったら、皆は目を丸くさせて私を見ていた。
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