223.5




 自習が終わったあとメイは本を抱えて教室を出ていく。ジャックはそれを見て慌てて席を立ち、メイの後を追い掛けようとしたが、ケイトに阻まれてしまった。


「やばいメイ行っちゃったよ!」
「うわっと!」
「あ、ジャックごめーん!」


 ケイトにぶつかられジャックはよろける。なんとか踏ん張り転けるのは避けることができた。
 ケイトはメイを呼びながら慌ただしく教室を出ていく。呆然とするジャックにエイトが声をかけた。


「さっきケイトがメイの歓迎会しようって企てていたぞ」
「へ?歓迎会…?」


 だからケイトはあんなに慌ててメイを追い掛けていたのか、とジャックは納得する。そして、歓迎会なら自分も混ぜてもらおうと踵を返すジャックに、エイトがすかさずジャックを呼んだ。


「なぁにー?」
「その歓迎会、女子だけでやるらしいぞ」
「…え?」
「女子だけでやるらしい」


 聞き返すジャックをエイトは律儀に繰返し言う。ジャックは自分が入ることはできないと悟ったのか深く溜め息を吐いた。


「女子だけなんてずるいよー…」
「まぁそう拗ねるなよ」
「す、拗ねてなんかないしー、ただ仲間外れにされたみたいで寂しいだけだしー」
「それを拗ねてるって言うんだよ」
「あははぁー…」


 ジャックは溜め息にも似た笑い方をしながら力なく椅子に座った。


(そりゃあ、メイは0組に入ったんだし歓迎会があってもおかしくないけどでも僕らを仲間外れにしなくてもいいじゃん…ていってもケイトのことだから最初から僕らを入れる気なんてさらさらなかったんだろうけど…)


 悶々するジャックにエイトは首を傾げる。そんな二人の元にナインとキングがやってきた。


「なにジャックは気落ちしてんだ?いつもヘラヘラしてるくせに」
「僕だって悩むことくらいあるんですー」
「は?お前が?冗談だろオイ」
「まぁ大方メイのことだろ」
「キングったら身も蓋もないねぇ」


 キングは呆れたように笑い、ナインは眉根を寄せて首を傾げた。この様子じゃ何もわかっていないらしい。


「メイ?なんでメイが出てくんだよ」
「ナインにはわからないさぁー、ていうかわからなくていいよー」
「オイコラ待て、俺にわかんねぇことなんかねぇ」
「オリエンスの4ヵ国言えないナインじゃあ一生かかってもわかんないんじゃないかなぁ」
「そんぐらい俺でもわかるっつーの!」


 ふん、と鼻を鳴らすナインを見てジャックはニヤリとほくそ笑む。


「じゃあ4ヵ国言えたら教えてあげるー」
「よぉしぜってぇだからな!オリエンスの4ヵ国の名前はなぁ、「ブブルム」と「ミテリス王国」と「ロリ連盟」だろコラァ!」
「………」
「…んだよ」
「ぷっ、あははははは!」


 名前が間違ってるのはもちろん、4ヵ国だと言ってるのに3ヵ国しかなく、尚且つナインのどや顔にジャックは吹き出さずにはいられなかった。
 腹を抱えて笑うジャックにナインは憤慨したようでジャックに詰め寄っている。そんな二人を見ながらキングとエイトは溜め息を吐いた。


「何してるんだあいつら」
「ただの遊びだ」
「ただの遊びには見えませんが…」
「またジャックがナインをからかったのさ」
「…そういうことですか」


 キングとエイトの元にエースとトレイがやってくる。腹を抱えて笑うジャックとなんで笑われてるのかわかっていないナインを見ながら、エースが「そうだ」と口を開いた。


「今からトレイとリフレに行くんだけどエイトとキングもどうだ?」
「リフレ?」
「リフレ行く行くー!!」
「うわっ、ジャックいきなり耳元で喚くな!」


 エースの後ろから突如ジャックが現れ、大声を出して手をあげる。ジャックのその地獄耳にトレイは呆れ返った。
 ナインはまだ怒ってるのか不機嫌そうに腕を組んでいる。エースは腰に手を当てて一息つくと「ナインも行くだろ?」と声をかけた。


「おう。おいジャック!俺と勝負だコラァ!」
「えぇ?めんどくさぁい」
「俺に負けんのが怖いのか?アァン?」
「僕は平和主義なのー」
「最初にお前がナインをからかったんだろ」
「そうだっけ?」


 そう言って惚けるジャックに、ナインが激昂するのに時間はかからなかった。