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 扉が開く音に私は顔をあげる。私に気付いたジャックはパッと笑みを浮かべて近付いてきた。


「待たせてごめんねぇ」
「ううん、そんな待ってないよ」
「…んふふ」
「……なに、急に」
「今の、デートの待ち合わせみたいだなぁって思って」
「…そうですか」


 笑いながら変なことを言い出すジャックに少し気恥ずかしくなる。ジャックの嬉しそうな顔を見て、頬が緩むのを感じながらベンチから腰をあげてジャックと共に墓地へと向かった。

 墓地に入ると数えきれない程の墓石が目に映る。その墓の数は前よりも格段に増えていて、墓を造る途中のものもあった。その中に入ろうと足を踏み出したそのとき。


「!…ジャック?」
「…あ、ご、ごめん!」


 突然手を後ろに引かれ驚きながらジャックに振り返る。ジャックは何故か悲しそうな顔をしていた。
 先に行くトンベリを追い掛けようとしても、ジャックが私の手を掴んだまま動かない。何かあったのかと首を傾げながら声をかけた。


「ジャック、どうしたの?」
「…んや、なんかメイが消えそうだったから」
「消えそうだった?私が?」


 そう言うとジャックは困惑しながらもコクンと頷く。消えそうだったと言われても実際は消えていないし、自分で自分の手を見ても消えるような様子はなかった。


「消えてないけど…」
「んー…僕の勘違いだったかも。メイはちゃんとここにいるもんね」


 うんうんと頷きながら手をギュッと握り締める。そんなジャックを不思議に思っていたらジャックは私の手を引いたまま歩き出した。トンベリのほうを見るとある墓石の前に立っているのが目に入る。多分あそこが0組の指揮隊長の墓石なのだろう。生きているのに墓石があるなんてなんだかおかしな話だ。
 墓石の前に来た私は目を閉じて手を合わせ、あの戦争で亡くなった人たちの冥福を祈る。


「ねぇ、メイ」
「ん?」


 急に話し掛けられ、目を開けてジャックを見上げると、ジャックは私の両手を掴むなり顔を近付けてきた。


「なっ」
「いなくならないよね?」
「は?」
「消えないよね…?」
「………」


 悲痛な面持ちに弱々しい声で言うジャックに、私は胸が苦しくなる。何があったのか知らないけれどジャックがそんな表情しているせいか、私まで悲しくなってきた。ジャックのその言葉は自分に言い聞かせているように聞こえて、ほとんど無意識にジャックの手を握り返した。


「大丈夫、いなくならないよ」
「…本当?」


 不安そうに揺れる瞳に、安心させるように笑みを作る。ジャックは眉根を八の字にさせて未だ不安がっていた。
 この世界で生きているのに、いなくならない?とジャックは口にした。ジャック自身もこの世界の理は理解しているだろう。
 私が死んだらクリスタルが忘れさせてくれるとわかっているのにどうしてそんなことを言うのだろうか。何かに恐れてるような気がして、そんなジャックの不安をなんとか和らげようと口を開いた。


「そ、それに今ここにちゃんといるし、0組にも異動になったんだから、私だけいなくなるようなことはないんじゃないかな。死なない限り、だけど」
「メイは僕が何に換えても守り抜くから死なないし、ていうか死なせないよ!」
「…自分のことも大事にしなよ…」


 はぁ、と溜め息を吐きながら言う。そう言ってくれるのは有り難いけれど、守られるのは柄じゃない。
 そんなことを思いながらジャックをちらりと見ると、ジャックは神妙な面持ちで私をじっと見つめていた。さっきとはまた少し様子が変わるジャックに眉を寄せる。


「聞かないの?」
「何を?」
「僕が、玄武のルシと戦う前に言ったこと」
「…あぁ」


 ジャックの言葉にそういえば、と思い出す。ジャックに言われるまで全く考えてなかった、というか考えてる余裕がなかった。そう言うとジャックはきょとんとしたあと、ぷっと吹き出した。


「あはは、なぁんだ、考えてなかったんだねぇ。ふは、意外ー」
「…あ、そう」
「剥れるメイかわいいー」
「剥れてなんかない!」


 ジャックから顔を背ける。大戦が終わってから色々あったんだから仕方ないだろう。それにしても、ジャックはなんで今更そんなことを言うのだろうか。確かに気になると言えば気になるけれど、無理に聞こうとは思っていないのに。
 ジャックはひとしきり笑ったあと、ふぅ、と一息ついて私の名前を呼んだ。


「メイ」
「ん」
「気になる?」
「そりゃ多少はね。でも、それほど気にしてないかな」
「え、そうなの?なんでー?」
「んー…死なないっていうのが本当でも嘘でも、ジャックや皆が生きてるならそれでいいし。ちなみに守られる気はさらさらないから」
「……なんか納得いかないなぁ」
「え?」


 聞き返すもジャックはヘラッと笑って「なんでもー」と言って踵を返す。変なジャック、そう思いながら足を踏み出した。