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 今は恋愛だのなんだの考えてる暇はない。私にはやることが沢山あるし、問題も解決してないのだ。まずは自分の問題をしっかり解決して、それから考えることにしよう。
 そう思った私は顔をあげて気合いを入れるようによし、と呟いた瞬間、COMMに通信が入った。昨日の今日で何のようだ、と眉を寄せながらCOMMを繋ぐ。


「はい?」
『今日は繋がったな…』
「は?」
『あぁ、気にしないでくれ。メイ、今から軍令部来て欲しいんだけど』


 通信相手はナギだった。ナギは変な独り言を言ったあと軍令部に私を呼び出す。ナギの声を聞いて先ほどの彼女の姿が脳裏を過ったが、それを振り払うように首を横に振った。
 軍令部に呼ぶということは多分上層部からの命令だろう。面倒だな、と思いながら私は軍令部へ向かった。

 軍令部に入る前にトンベリをおろす。そして意を決して軍令部の中に入った。
 軍令部内はいつもなら朱雀兵や武官、候補生が数人いるのにその人らは居らず、代わりにナギとタチナミ武官、そして軍令部長と院生局局長が私を待っていた。
 珍しい顔ぶれに私は顔をしかめながら、軍令部長の険しい顔を見て、間違いなく面倒臭いことになると確信する。そんな私に気付いたナギが苦笑を浮かべて片手をあげた。


「悪いな、急に呼び出したりして」
「ううん…私に何か話があるから呼び出したんでしょう?」


 そう言いながら軍令部長と院生局局長に視線を向ける。軍令部長はさっきよりも顔を歪ませていて、院生局局長も険しい顔で私を見つめていた。


「それがな…」
「0組の指揮隊長の行方がわからぬのだ!」


 ナギを遮って啖呵を切る軍令部長に私は眉を寄せる。だからなんだって言うのか、そう言いたいのを我慢しながら私は口を開いた。


「行方がわからないって、どういうことですか?」
「貴様、この期に及んでまだしらばっくれるつもりか!」
「はぁ?」


 軍令部長の怒号が軍令部内に響く。そして私の話を聞こうとせず一気に捲し立てた。


「秘匿大軍神が消滅したあと、セツナ卿の召喚部隊のところへ行くよう四課に命じたのだ。その時、四課が貴様と0組の一人を確認した。貴様とそいつはあそこで何をしていたのかね?ん?事によっては厳重な処分を下すことになるが」


 捲し立てながらもしたり顔になる軍令部長に私は殺意が沸沸と湧いてくる。そんな私に気付いたナギが落ち着けと言わんばかりに首を横に振っていた。
 それを見て私は落ち着きを取り戻すため、大きく息を吸いそして大きく吐く。その行動が軍令部長の癪に触ったのか、また声をあげた。


「貴様…!」
「軍令部長、少しよろしいですか?」


 軍令部長を遮ったのは院生局局長で、制された軍令部長は顔をしかめたあと素直に口をつぐむ。院生局局長は軍令部長が大人しくなったのを見て、そして私に視線を向けた。


「軍令部長が気になるのも仕方ありません。かく言う私も、あなた方がそこで何をしていたのか気になります。0組の指揮隊長であった人物が召喚部隊にいたはずが、遺体も残さず消えていたのですから」
「それで、私を疑ってるんですか?」
「貴様ら以外に誰がいると言うのかね!貴様と0組の候補生は蒼龍のモンスターであるヒリュウを従えてあの場所へ向かったことを四課が見ている!タチナミ君、キミも見たのだろう?ヒリュウを従えるこいつの姿を」
「………」


 鼻息荒げに軍令部長はタチナミ武官に振り返る。タチナミ武官は顔を歪めたまま、何も答えなかった。はっきりしないタチナミ武官に、軍令部長は眉間に皺を寄せる。
 この状況にどうすればいいのか迷っているのかはたまた私を庇おうとしているのか。どちらにしてもはっきりしないのはタチナミ武官にとってマイナスにしかならない。やっぱりあの時タチナミ武官に見られたのは失敗だった。もっと先のことを考えて行動するべきだったと後悔する私に、軍令部長が詰め寄ってきた。


「さぁ、あそこで何をしていたか、白状するんだ!」


 軍令部長と院生局局長の目が私を見つめる。ナギもこの間には入ってこられないようで、眉間に皺を寄せながら傍観していた。
 流石にこの状況はやばい。四課に見つかったのが運の尽きだったか、と溜め息が出そうになるが何とか堪える。私だけならまだいいかもしれない。だけど私に着いてきてくれたジャックを巻き込むわけにはいかなかった。
 ここで私が何とかしなければジャックにも処分が下されてしまう。それだけは避けたい。でもどうやってジャックを巻き込まずに済むのか…。


「………」
「言わないのかそれとも言えないのか、どっちなのかね。まぁ、どちらにしても処分は受けて」
「今回のことはすべて、ドクターの指示です」
「な?!」
「!」


 もし"あの事"が本当だったとしたら、あの人は私を利用していることになる。それならば私も、ドクターを利用しない手はないと考えた結果がこれだった。それに今ジャックを助けることができるのはドクターしかいないのだ。
 私の発言に軍令部長も院生局局長も目を丸くして、側にいたタチナミ武官とナギも愕然としていた。相手が発言する前に私は続ける。


「私とジャックはドクターに極秘任務を任されあの場所へ赴きました。その極秘任務を軍令部長や院生局局長は知らされていないのですか?」
「むっ…き、聞いておらんぞ!そんな話!」
「えぇ、聞かされていません。では、その任務はどういった内容なのです?」
「ドクターがあなた方に任務の内容をお教えしていないのなら、私の口から言うことはできません」
「貴様…!」


 軍令部長は鋭い目付きで私を睨み付ける。院生局局長は顎に手を当て、何やら考え込んでいた。
 一か八かの賭けに賭けるしかなかった。ドクターなら何とかしてくれる。私だけだったら何もしなかったかもしれないが、今回はジャックも関わっているのだ。是が非でもドクターはジャックを助けるだろう。
 でも、私がそれを利用することはジャックをも利用しているような気がして罪悪感が沸いてくる。結局、ジャックのためとか言いながら自分のためでもあるかもしれない。
 周りを利用するだけ利用して、何もできない自分が悔しくて情けなかった。